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【宋美玄先生×博報堂キャリジョ研】
先生に本音で聞いてみた、働く女性のココロとカラダ。
誰もが働きやすい社会を目指して

2021.10.18
#キャリジョ研#マーケティング
これまで、プライベートな問題としてあまり公に語られることがなかった女性特有の身体の悩みや健康課題。近年ではフェムテック市場が急速な拡大をみせ、フェムテックを活用して女性の力を最大限に発揮させようという企業の取り組みもはじまっています。一方で、現場の働く女性たちは、職場での理解不足やパートナーとの認識ギャップで、いまだに多くのモヤモヤを抱えているのも事実。今回は、働く女性のインサイトを発信する博報堂キャリジョ研が、産婦人科医の宋美玄先生に女性のヘルス&メンタルケアについてうかがいました。

生理やピルの話題がSNSで語られるようになったのはここ数年

博報堂キャリジョ研 松井博代(以下松井):本日はよろしくお願いします。わたしたちは女性が働きやすい“ニュートラルな社会”をつくるために活動しているのですが、本日は女性のヘルスケアをテーマに、職場やプライベートにおける男性とのコミュニケーションの取り方や、自分の身体・メンタルとの付き合い方などを中心にお話しできればと思っています。
まず、なぜ日本でも、ここ数年の間、男性も女性の身体について知りましょうという流れが生まれていると思われますか?

宋先生:2017年度からスタートした経産省の「健康経営優良法人認定制度」がひとつのきっかけになっていると思います。女性のヘルスリテラシー向上にむけて取り組むことが、評価項目になっているので。toB向けのビジネスが盛り上がっている要因としては、この制度の影響が大きいでしょうね。
あとは、ちょうど同じくらいのタイミングで、とあるオンラインメディアが女性の身体にまつわるトピックを積極的に発信しはじめたのも大きかったと思います。だんだん生理ネタがバズるようになって、Web記事でもよく見かけるようになったのはここ数年。それまでは、取材で生理やピルの話をしても、読者からの反発をおそれてメディアに載らないということが多かったですから。

プライバシーを開示するより、おおらかに許容できる世の中に

博報堂キャリジョ研 信川絵里(以下信川):企業内で理解を深めようという動きがある一方、やはり職場ではPMS・生理の不調を訴えにくかったり、過労を心配されてプロジェクトから外されてしまったりした経験がある人もいるようです。どうすればうまく周囲の理解を得られるでしょうか?

宋先生:必要以上に気をつかわれたり、変な誤解を生まないためにも、男性側にも正しい知識をもってもらう必要はあります。ただ、「わたしいま生理前でつらいんです」というのをわざわざ発信する必要があるかは疑問。それを開示する必要はなくて、ひとは誰でも体調不良のときがある、ということをみんなが理解していればいいですよね。生理周期も更年期もプライバシーに関わることなので、それを開示できる社会を目指しているわけじゃないと思うんです。むしろ、女性にも男性にも不調の時があって、お互い急な体調不良も受け入れていきましょうという社会になってほしい。子供の発熱で急に休まなければいけないこともあるでしょうし男でも女でも、子持ちでもそうでなくても、“いろいろあるよね”というおおらかさをもって、他人の事情をジャッジせず、利他的にふるまうことができるようになればいいと思います。

妊娠を望んでいなければ、ピルで身体を“省エネ”状態にする選択肢も

松井:たしかに。すべてをさらけださなければならないのも窮屈です。仮に理解を得られたとして、実際、PMSや生理痛でひどく不調を感じる時は、仕事とどう折り合いをつけていけばいいでしょうか?

宋先生:わたしとしては、妊娠を望んでいないときに生理にふりまわされる必要はまったくないと考えているので、ピルなどを適正に使って、子宮と卵巣を省エネ状態にさせるのもひとつの方法だと思います。小学校の保健体育で「あなたの身体は大人になったので、これから毎月子供を産む準備をするんですよ」と教わりましたよね。逆に言えば、生理は“今月妊娠したい”と思っている人以外には意味がないものなんです。むしろ生理の血が逆流して子宮内膜症などの病気を引き起こす場合も。年間13回くる生理をなるべく減らしたり、出血の量を減らすことで、さまざまな病気のリスクも軽減することができる。毎月出血するということは、身体にとって大変負担なことなので。

現代女性は“生理の回数が多すぎる”という認識を

信川:省エネと聞くと少しポジティブに受け取ることができますが、ピルなどのホルモン剤を使うのは正直不安で…。自然のサイクルを断ち切ってしまっても大丈夫なのでしょうか?

宋先生:生理って「毎月きてくれてありがとう」みたいに思っている方多いようなんですが、先ほどお話したように、身体にすごく負担がかかるので、実は身体にとってはまったくありがたいものではないんですよね。100年前にくらべると現代人は初潮が3年早まっていると言いますし、子供を産む回数も減っている。この100年で生理の回数が格段に増えているということですから、これだけ多く生理を経験していることのほうが、ホモサピエンス1万年の歴史からするとよっぽど不自然なことなんです。もし薬も飲まずに自然のままがいい、というのであれば、計算上20代から6人子供を生むくらいでないと…。
わたしには9歳の娘がいますが、ピルを飲むことで「生理のない青春を送ってほしい」と考えています。

パートナー間でのギャップを感じたら

信川:ライフスタイルや出産回数の変化の影響がそんなところに…。ちょっと驚いてしまいました。出産というと、パートナーが女性の身体や仕事のことを考えずに、気軽に「子供がほしい」と言ってくることに対してモヤモヤしている女性は多いようです。パートナー間の意思疎通について、なにかアドバイスがあれば教えてください。

宋先生:男性は、自分が「子供がほしい」と言ったら女性は喜んでくれると思っている可能性もあるので、そういうこと以前に、妊娠出産で自分の身体に負担があったり、キャリアが描けなくなるのが不安だということを伝えた方がいいですね。不安に思っているポイントを絞って話すのがいいと思います。
コミュニケーションの取り方というよりも、まずは前提知識の共有が必要。女性の身体について同じように知識をもってもうことからはじめるべきだと思います。それと同時に、女性側も男性に教えられるほど自分の身体のことを知らないという事実もありますよね。教えてあげるのではなく、いっしょに学ぶという姿勢がいいと思いますよ。

かかりつけ医を持つなど、常に情報のアップデートを

松井:たしかにわたし自身も、女性の身体に起こりうるさまざまなリスクについて、もう少し早めに知っておきたかったと思うのですが、普段からどのように情報をとればいいですか?

宋先生:情報のとり方が一番むずかしいですね。日本では学校を卒業した後に情報をアップデートできる機会が圧倒的に少ないですし。そういう意味では、はじめにお話しした経産省の取り組みがあるように、企業が健康上の知識を更新できる場を提供してくれたらいいな、とは思います。あとは、かかりつけ医を持つことも大切ですね。生理痛やPMSなど、なにか自覚できる不調があれば行った方がいいですし、特になければ婦人科検診のときや生理をずらしたいときに受診して、自分と合う先生を見つけておくのがいいと思います。

知りたいことや望んでいることは、遠慮せずにどんどん言ってほしい

信川:いい婦人科の探し方というのはあるのでしょうか?

宋先生:事前にホームページを見て、そのクリニックがどういうことを大切にしているか、そこに自分は違和感を抱かないかチェックしてみるといいと思います。あとは実際に通っている人のクチコミを参考にするとか。受診するときにお願いしたいのは、思ったことは口にしてほしいということですね。医者も魔法使いではないので、患者さんがどんなことを求めて病院にきているのか、すべてを当てることはできません。あの先生は思ったような処置をしてくれなかったと残念に思うくらいであれば、自分の受けたい検査や疑問に思っていることを遠慮せず聞いてみることが大事だと思います。

松井:信頼できる相談相手を持つことも大切なんですね。周りの理解を促す以前に、わたしたち自身も正しい知識や自分なりの対処法を持っていないと仕事にもプライベートにも生かすことができない。そして、女性に限らず全員が体調面やメンタル面で無理をせずに働けるような環境づくり・空気づくりこそが重要なんだと感じました。

信川:「省エネ」という考え方が衝撃的でした。どうしても中学・高校の頃にすり込まれた知識で止まってしまっていて、ピルと聞くと悩みや症状がある人のためのホルモン剤、というイメージを持っている自分がいました。体調や気分のコントロール方法について情報をアップデートせず、無知のまま通り過ぎるのは非常にもったいないことだと改めて認識できた気がします。かかりつけ医やメディア、知人からの口コミなど多面的に情報を取り入れながら、歳とともに変わっていく自分の身体とうまく付き合うことが大切なのですね。宋先生、今日はありがとうございました!

宋美玄先生
丸の内の森レディースクリニック 院長/医学博士
株式会社WOMEN’S HEALTH 代表取締役

2001年大阪大学医学部医学科卒業後同大学産婦人科入局。
子育てと産婦人科医を両立、メディア等への積極的露出で“カリスマ産婦人科医“として、様々な女性の悩み、セックスや女性の性、妊娠などについて女性の立場からの積極的な啓蒙活動を行っている。働く女性の健康に寄り添うオンライン相談サービス『TRULY』を監修。

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