満永 隆哉
株式会社HYTEK 代表取締役 Co-CEO
道堂 本丸
株式会社HYTEK 代表取締役 Co-CEO
吉澤 康隆
博報堂アイ・スタジオ アカウントプロデュースセンター プロデューサー
星野 圭祐
博報堂アイ・スタジオ コミュニケーションプランニンングセンター テクニカルディレクター
―はじめに、このサービスを開発したきっかけを教えてください
HYTEK満永隆哉(以下 満永):
自分が構想をはじめたのが今年の3月くらいから。HYTEKでは、フェスのオンライン施策などコロナ禍でもさまざまな提案をしていたのですが、緊急事態宣言の延長に次ぐ延長で、携わるはずだったイベントがことごとく中止になっている状況でした。我々もメンタル的に暗い気持ちになっていましたし、イベント業界も音楽業界も暗いムードが流れるなかで、自分たちが大好きなエンターテインメントの世界で、なにかポジティブな施策が提案できないかと考えてはじめたのがこの企画です。
―エンタメ業界に向けた施策で「検温」に注目したのはなぜですか?
満永:いまみんながフェス行きたい!と思っているなかで、ひさびさにフェスに行けたら一番はじめにワクワクする瞬間って入り口のはずだな、と思って。いまは、マスクをして距離を空けて、真顔で検温してから入場していくという状態。仕方がないとはいえ、そこでテンションが下がってしまうのは悲しいことだと思うんです。
フェスのエントランスでみんなで写真を撮って「ここから楽しむぞ!」という体験も含めてイベントのよさだと思っているので、検温をエンタメに変えて、笑顔でスタートできたらいいなという思いからでした。
―入り口で行う感染対策はほかにもあるなかで、検温だったのですね?
HYTEK道堂本丸(以下 道堂):
個人的にアルコールで消毒する作業は結構好きなんです。それって、手を動かすということがひとつの体験になっているからではないかなと。一方検温はどうしても受動的。誰かにやられるとか、自動でやられるとか。イベントのなかで一番受動的な仕組みだと思うんです。それを写真を撮るという能動的な体験にすることに意味があると考えました。
満永:アルコール消毒はもう習慣になってますよね。飲食店に入ったら自然に消毒しようと思う。僕がよく利用しているある店舗は顔認証付きの検温を通らないと中に入れないシステムになってるんですが、それはただただ、めんどくさいんです。本来はスッと入れた空間なのに、きちっと静止して認識してもらわないといけないというのが、すごく断絶されている感じがする。なんで俺は真顔でカメラを見ているんだろう…と我に返ってしまって。
―アイ・スタジオのお二人ははじめにこの企画をきいたときの印象は?
アイ・スタジオ吉澤康隆(以下 吉澤):
実は、コロナの初期からこれと近い企画は誰かがやるだろうなとは思ってたんです。でも意外にどこもやってなくて。話がきたときに、ついにきたなという感じでした。
ただ、今考えると、たとえ同じアイデアを思いついたとしても、「カメラの前に立つと人は楽しくなる」という持論を強く持っていないと、たぶん企画の段階で「でもわざわざ店に入る前にそんなことやるかな?やらないか」で終わってしまったと思うんですよね。フェスというシーンを想定して、入場のはじまりから楽しくするという体験設計をセットで考えていたからこそ、この企画がただの思いつきに終わらず実現したんだなと感じます。
満永:たしかに、これがフェスじゃなく、お店に入るための企画だったら実現していなかったかもしれないですね。我々がフェスの仕事に携わっていたからこそ、写真の必然性と思い出は持ち帰りたいものであるというインサイトを確信して成立できたのかもしれません。
アイ・スタジオ星野圭祐(以下 星野):
僕の趣味はアイドルのライブに行くことなんです。ライブに行って何枚も写真をとってSNSにあげたりする。だから、この企画はぜったいにおもしろいものになるだろうというのが第一印象でした(笑)。単純といえば単純な企画なので、誰かにやられる前にすぐに実現しないといけないと思いましたね。
道堂:すごい技術を使っているわけじゃないので、誰かは思いつきそう。その一方、誰に話しても「それいいじゃん!」という反応をもらえたので、企画自体は当たるんだろうなという予感はありましたね。
満永:その「考えつきそうだった」というのが企画のなかでいちばんの褒め言葉だと思っていて、この企画の強さって、企画の全貌がシンプルで、一枚の企画書でわかることだと思っているんです。いろんなフェスに提案するとき、「検温がフォトカードに」という一言だけで伝わって、「すぐにやろう!」となる。そこが共感力だったんだと思います。
道堂:HYTEKとしてコンテンツ開発の戦略を立てている時に、はじめてThermo Selfieの企画を見せられたとき、秒でこれだな、という感覚はありました(笑)。万人がいいと思いそう。だからこそ質を上げないといけないし、スピードを上げなければならないという課題がありました。開発でいちばん苦労したところはスピード感かもしれないですね。
―スピード感のほかに技術的な面で苦労したところは?
吉澤:検温して写真を撮って印刷するというシンプルな体験だからこそ、その質にはこだわりました。検温の精度はもちろんですし、プリンターのカードの質感など相当議論しましたね。
星野:もともと屋外のフェス会場に持っていく前提だったので、筐体だけ持っていって電源をつなげば動くようにつくっているのがポイントです。どんな場所でも使えることが大事なので。
道堂:技術者いらずというのが大前提でしたもんね。お客さんにとって使いやすいことも、会場のスタッフさんが扱いやすいことも大切。使いやすさにはこだわりました。
星野:ひとつのクライアントさん向けにつくって終わりではなく、パッケージ化できるように開発していたので、カードのデザインなど、クライアントさん自身がカスタマイズできるようになっているのもポイントですね。
道堂:クライアントさんごとにカスタムして使ってもらえるように設計しているんですが、まだ実際のフェスには持っていけてなくて。有楽町にある飲食店に置いてユーザーに体験してもらいました。
満永:こんなしっかりしたカードなんだ、とか、こんな早くプリント出るんだとか、実際のお客さんの声を聞けたのはうれしかったですね。紙の質感とかスピード感は、画像や動画では伝わらないので、ぜひ実機で体験していただきたいですね。
サーモセルフィーにかける思いや開発エピソードをきいた前編。後編では、サーモセルフィーを体験したユーザーの反応や、サービスのこれからについて語ります。
2015年博報堂に入社。関西支社でプロモーション・PR戦略グループ、東京での第二クリエイティブ局を経て、テックエンタメレーベルHYTEKを設立。クリエイティブ職のプランナーとして国内外のブランドのプロモーション・コピーライティング・PRを担当。裏方として制作業務に従事する傍らパフォーミングアーティストとしても活動を行い、アメリカNBA公式戦やTEDxなど、国内外の様々なステージに出演歴がある。エンターテインメントの表舞台と裏方と、マスとストリートとの境界を溶かすことが目標。
2015年博報堂に入社。研究開発局、TBWA HAKUHODOを経て、テックエンタメレーベルHYTEKを設立。大学時代に、ウェアラブルコンピューティングを活用したダンスパフォーマンスシステムの開発に関わる。マーケティングツールの開発やデータ分析に従事する傍ら、ARやVRなどの新しいテクノロジーを活用した次世代顧客接点の研究開発などに携わる。大学やベンチャーの持つテクノロジーの種と企業のビジネスの種を結び付けた事業創造を目指す。2016〜2019年ミラノサローネ出展。
2009年博報堂アイ・スタジオへ入社。デジタル領域を得意とするプロデューサーとして、オンラインからオフラインまで一貫したプロジェクトを手掛ける。2016年からは上海に駐在。急速に新しいサービスが生まれては消えながらデジタル先進国に進化する中国において、上海DACにてデジタルメディア領域の経験を経たのち、上海博報堂でプロモーション全体を統合するデジタルアクティベーションプランニングに携わる。現在は日本に戻り、クライアントのDX推進を目的としたビジネス開発やサービス系アプリ開発などのプロジェクトプロデュースを行う。
2017年博報堂アイ・スタジオに入社。サーバサイド領域からアプリ・インタラクション領域の開発、運用、ディレクションやライブ配信等の映像配信、そのほかAI技術や自社サービス系の研究開発までという幅広い領域での業務に従事。現在では大規模な映像演出やライブ配信をはじめとしたインタラクション領域を中心に担当している。