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イベントの入り口を“笑顔の聖域”に。
検温もエンタメ化するサーモセルフィー(後編)

2021.10.27
#エンターテインメント#テクノロジー
検温と同時に撮影を行い、フォトカードとして思い出に残すThermo Selfie(サーモセルフィー)。その開発エピソードについてきいた前編につづき、後編では有楽町の飲食店で実際に体験したユーザーの反応や、今後の展望についてききました。

検温を「思い出として飾っておいていいもの」にする

―店舗で体験してくれたユーザーからはどのような反応がありましたか?

満永:まず、実際に設置してみて「誰でもわかる」ということを実証できたのがよかったです。外国のお客さんやお子さんも、案内なしで体験してくれていました。子どもは1回どころか何回もやってくれていて、そんなにポジティブに検温することある!?という(笑)。やりたい検温ってすごいなと思いましたね。そういう意味では、検温をエンターテインメントに昇華するという根本のコンセプトはブレてなかったと感じました。

道堂:サーモセルフィーの横に置いたボードには意味があると感じましたね。このボードが置かれていることで、すでに誰かがやっているという安心感を伝えることができたのかもしれないです。

満永:ボードを置いた意図としては、体験イメージを見せるという側面がひとつと、検温を「思い出として飾っておいていいもの」にするというメッセージもありました。普通の検温だったら誰の記憶にも残らず、ただ通り過ぎていくだけですが、ここに元気にきたよ!ということをポジティブにみんなに見せていいじゃないという意味の転換をしたかったんです。

―カードには体温の横に空白のスペースがありますが、余白を残した理由は?

満永:余白にはお客さんに自分で書いて欲しいという意図を込めました。理由は2つあって、ひとつめは、自分の名前を書くことでただの流れ作業じゃなく、検温に対する意識を高めほしいということ。能動的な体験にしてもらうためにつくった余白です。あと、名前を書くと、書いたこと自体があたたかみになって、持って帰りたくなるじゃないですか。書くと捨てられなくなる感覚っておもしろいですよね。フェスの入場券といっしょに取っておく、みたいなものになるといいと思って。

吉澤:みんなけっこう書いてくれましたよね。びっくりするくらい(笑)。

満永:僕は書いてくれる自信ありましたよ(笑)。フェスとかスポーツ会場とかだったらきっともっと書いてくれましたよね。やっぱりみんな、フィジカルな体験をしたいんじゃないかと思うんです。いまコロナでいろんなものに触れないからこそ、自分の手でなにかすることへの欲求が高まっているような気がしています。

道堂:今回飲食店でこれだけの反響がいただけて、これからフェスやいろんなイベント会場に持っていきたいですし、結婚式とかも相性がよさそうですね。

入り口を“笑顔の聖域”に。すべての事務作業をエンタメ化したい

―いろいろな気付きがあったなかで、今後このサービスをどう発展させていきたいですか?

星野:技術的には、表情認識を入れて笑顔になったら撮影するようにしたり、フィルターをかけられるようにしたり、画像合成をできるようにしたり。チケットレスのシステムと連携して、入場券代わりにすることもできそうですね。家族みんなで撮影できるようにするとか…。もともとの機能がシンプルなぶん、可能性は広がりますね(笑)。

満永:イベントの種類にあわせていろいろカスタマイズできますよね。スポーツファンの人からは選手といっしょに写りたいという要望がありましたし、女性からはもっと盛れるようにしてほしいとか(笑)。はやくいろんなパターンを試したいですね。

道堂:僕らが最初に着目した「笑顔でイベントの最初を迎える」というところでいうと、検温している時間だけはマスクを外して笑顔になっていいよ、という大義名分をつくってあげられるとすごくおもしろいですよね。

満永:マスク外して写真撮れるところないですもんね、いま。入り口だけは笑顔になれる聖域みたいな。あとは、観客だけでなく、イベントをつくっているスタッフの笑顔とか健康を可視化する文脈もあると思っていて。裏方のみなさんって、イベントを成功させるためにめっちゃ努力されているわけじゃないですか。そういう方々が「みんな元気ですよ、安心して来てください!」って笑顔の写真で迎えてくれたら、また違う一体感が生まれる。そういう彩り方もエモーショナルですてきなだと思っているので、ぜひやってみたいです。

道堂:エンタメのトレーサビリティみたいな感じになる。新しい考え方だと思います。

満永:イベントの感染対策で「スタッフもきちんと体調管理しています」っていう注釈が書いてありますけど、あれも事務的な作業じゃないですか。そこもエンタメにしたいですね。

道堂:エンターテインメントにおける事務的な作業をすべてエンタメ化したいというのが我々の共通の思いなので。

満永:今回のサーモセルフィーではイベントのなかの「入り口」にフォーカスしていますが、イベント全体で考えると予約のところから体験はスタートしているし、イベント中も、帰ったあとまでその体験はつながっているはず。そのひとつひとつに焦点を当てていきたいと思っています。

広告会社でなく、テクノロジー×エンターテインメントの専門レーベルとして

―さいごに、HYTEKは社内レーベルとしての活動を経て今年9月6日に法人化しましたが、今後どんな取り組みを進めていきたいですか?

満永:コロナを経験したうえでのエンターテインメントのあり方は、これからさらに積み上げていかなくてはいけないもの。そのために新しいテクノロジー×エンターテインメント領域をつくっていくお手伝いができればと思って法人設立させてもらいました。
日本のおもしろい技術はまだまだたくさんあるなかで、その発信の仕方や文脈のつくりかたが得意でない技術者が多い。そこをアシストしていくのが我々の使命だと思っています。
だからハイテクのハイは技術が高いのハイではなくて、ハイプのハイ。熱狂させるという意味です。すばらしい技術がちゃんとお客さんに伝わって、熱狂させられるコンテンツに変えていくレーベルでありたいと考えています。
今回の検温をエンタメの文脈につくりかえるというようなことは、もっといろんな領域に発展できる。AIなのか、動画なのか、音声なのか、さまざまな“眠っている技術”を、僕らのクリエイティブの力でエンターテインメントにしていくお手伝いができればと思っています。

道堂:技術をもった会社をPRしていっしょにコンテンツ開発をしていくというのがひとつ。もうひとつは、今回のサーモセルフィーのようにオリジナルコンテンツ開発にも取り組んでいきたいと思います。世の中にはまだ知られていないコンテンツや技術があると思うので、今後もおもしろい技術をもった会社を探して、発信していきたいですね。

満永:我々が大切にしているのは、自分たちはエンタメ会社であるということ。コンテンツの開発もするし、エンタメ情報の発信もする。広告という手段としてのスキルは持ちつつ、テクノロジーとエンターテインメントの専門レーベルとして活動していきたいと思っています。

満永 隆哉
株式会社HYTEK 代表取締役 Co-CEO

2015年博報堂に入社。関西支社でプロモーション・PR戦略グループ、東京での第二クリエイティブ局を経て、テックエンタメレーベルHYTEKを設立。クリエイティブ職のプランナーとして国内外のブランドのプロモーション・コピーライティング・PRを担当。裏方として制作業務に従事する傍らパフォーミングアーティストとしても活動を行い、アメリカNBA公式戦やTEDxなど、国内外の様々なステージに出演歴がある。エンターテインメントの表舞台と裏方と、マスとストリートとの境界を溶かすことが目標。

道堂 本丸
株式会社HYTEK 代表取締役 Co-CEO

2015年博報堂に入社。研究開発局、TBWA HAKUHODOを経て、テックエンタメレーベルHYTEKを設立。大学時代に、ウェアラブルコンピューティングを活用したダンスパフォーマンスシステムの開発に関わる。マーケティングツールの開発やデータ分析に従事する傍ら、ARやVRなどの新しいテクノロジーを活用した次世代顧客接点の研究開発などに携わる。大学やベンチャーの持つテクノロジーの種と企業のビジネスの種を結び付けた事業創造を目指す。2016〜2019年ミラノサローネ出展。

吉澤 康隆
博報堂アイ・スタジオ アカウントプロデュースセンター プロデューサー

2009年博報堂アイ・スタジオへ入社。デジタル領域を得意とするプロデューサーとして、オンラインからオフラインまで一貫したプロジェクトを手掛ける。2016年からは上海に駐在。急速に新しいサービスが生まれては消えながらデジタル先進国に進化する中国において、上海DACにてデジタルメディア領域の経験を経たのち、上海博報堂でプロモーション全体を統合するデジタルアクティベーションプランニングに携わる。現在は日本に戻り、クライアントのDX推進を目的としたビジネス開発やサービス系アプリ開発などのプロジェクトプロデュースを行う。

星野 圭祐
博報堂アイ・スタジオ コミュニケーションプランニンングセンター テクニカルディレクター

2017年博報堂アイ・スタジオに入社。サーバサイド領域からアプリ・インタラクション領域の開発、運用、ディレクションやライブ配信等の映像配信、そのほかAI技術や自社サービス系の研究開発までという幅広い領域での業務に従事。現在では大規模な映像演出やライブ配信をはじめとしたインタラクション領域を中心に担当している。

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