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アイドルが提供する新しい価値は”発見感”?
推し活における新たなコンテンツ消費スタイルは「トリミング&エディット」

2021.11.10
#コンテンツビジネスラボ#生活者調査
Shibuya 109 lab.によると、Z世代の75%がなにかしらの”オタク”だという (https://shibuya109lab.jp/article/210713.html) 。コロナ禍で”推し活(*1)”が加速する中、コンテンツビジネスラボによる「コンテンツファン消費行動調査2021」でも、”推し活”に関する調査設問を新たに追加。本コラムでは、若者の大半が楽しんでいる推し活の実態を探る。

推し活市場、どうなっている?

「コンテンツファン消費行動調査2021」によると、「好きなアイドルの”推し活”」を行っている人は、音楽利用層の約4人に1人という結果になった(*2)。さらに、推し活の推計市場規模は約1171億円にものぼる。実は、推し活市場規模は、「CDの入手」、「コンサート・ライブへの参加」など、音楽関連行動の市場規模の中で、もっとも高い金額なのである。これは、一人当たりの平均支出金額が大きいことも要因の一つに挙げられる。支出人数が最も多いのは「CDの入手」だが、推し活の平均支出金額は21,771円と、最も高いのだ。

推し活をしている人は、どのような人たちか?

では、このようにお金をかけながらも楽しんでいる推し活層は、どのような人たちなのだろうか?
まず年齢を見てみると、推し活層は圧倒的に女性の10-20代比率が高くなっており、全体平均41.3歳に比べ、34.1歳と10歳も若い。職業別に見てみても、学生比率が全体と比較して高くなっている。改めて若年女性中心に推し活が盛り上がっているということがわかる。

また、世帯年収は、全体平均607.4万円に対し、推し活層平均は648.4万円と、約40万円程度高い。推し活は、CDやグッズの購入、イベントへの参加など、支出先が様々であることや、推しへの支出自体が応援行為と考えられている面もあるため、この結果にも納得感がある。

次に、パートナー有無のデータを見てみると、推し活層の方が10ptほどパートナーのいる人の割合が少ないという結果となった。推し活は若年層比率が高く、未婚率が高いということが寄与しているかもしれないが、”リアコ(リアルに恋している)感(*3)”という言葉もあるように、現実のパートナーとの恋愛とは別で、推しの画像や動画でリアルな彼氏っぽさや親近感を楽しんでいる人も多いだろう。

さらに、各音楽関連行動に対しての利用率を見てみると、推し活層は、音楽利用層(*4)と比較して、全ての項目で利用率が高くなっていることがわかる。特に差分の大きい項目を見てみると、CDやDVD、関連グッズといった、”モノ”の購入を行っているだけでなく、ライブ・コンサートやカラオケといった、”コト”の消費も多くの人が行っており、とにかくなんでも手に入れたい、体験したい、という傾向にあるようだ。

推し活層に見る、新たなコンテンツ消費スタイルとは?

次に、推し活層の新たな特徴として、「好きなコンテンツの画像や動画を自ら編集してSNSやYouTubeなどの動画サイトにアップしたことがある」と答えた人が28.7%で、全体が12.1%であるのに対して、2倍以上の該当率となっていることが挙げられる。

実際に、ここ数年で、アイドルグループによる公式SNSや公式YouTubeチャンネルなどによる情報発信の増加により、推しの画像や動画が入手しやすくなったことも背景にあるだろう。さらに、最近は簡単に編集できる動画編集アプリも増えたことで、「すき!」「おもしろい!」と思ったモーメントだけを自由に切り取って、推しポイントなど、他人に教えたくなる内容を編集でき、短尺動画化が容易になった。そして、他の人がその動画を見て、その沼へよりハマりやすくなる、というサイクルもおきていると思われる。このような、UGC(*5)を作成してSNSや動画プラットフォームへ投稿する、という行動が、推し活層の新たなコンテンツ消費スタイル「トリミング&エディット」である。
そのような推し活層の行動を生かしたTikTok施策として、あるアイドルグループでは、TikTokのフォトモーション機能を利用した動画に、彼らの楽曲を使ってもらう、というものを実施しており、まさにUGC作成を誘発している。

そして、このトリミング&エディットの鍵となるのが、「発見感」だ。YouTubeやSNSにアップされているUGCを見てみると、推し単体に関するもの、グループ全体に関するものだけでなく、メンバーのある二人の関係性に注目した動画も多数存在する。もちろん、「推し(単体)のこの瞬間がかっこいい/かわいい」という発見を動画にしているユーザーも多いのだが、二人の関係性から見えてくる発見は、ついつい人にも教えたくなるくらい「発見感」がある。なぜなら、一人のときには生まれない”行間”があるからだ。メンバー同士のちょっとした言動や振る舞いに、関係性やストーリーを発見して愛でるという楽しみ方である。(まるで兄弟みたいな関係性の二人が動画の隅でわちゃわちゃしている、とか、よく見たら最年少が最年長をイジっている、など。よく動画等を見ていないとわからない細かいやりとりほど発見感は大きい) 。また、コンビであれば、たとえば6人組グループだとしても、6C2=15通りの組み合わせが考えられるため、発見が何倍にもなる。推しひとりを応援して楽しむだけでなく、何通りもの楽しみ方ができる。日本人はよく、行間を読むのがうまいと言われているが、まさに日本人だからこそのアイドルの楽しみ方なのかもしれない。

今まで、アイドルは、ルックスやパフォーマンスを磨き、それらを提供してきたところが大きい。しかし、最近では、その点に追加して、アイドルの素の一面や、そこから見えてくるメンバー同士のリアルな関係性(時には他グループメンバーとの関係性も)など、ファンが見出す”発見感”も重要な魅力となっている。この「自分だけの発見」は、他の人が見ることでその人を沼にハメる、もしくはハマるのを加速する効果もあると考えられ、沼にハマる→推し動画をシェア→他の人を沼にハメる、というサイクルが、ここ最近の推し活の加速の要因のひとつになっているのではないかと考えられる。実際に、TikTokのUGCきっかけでアイドルにハマった、という人も散見される。

また、調査結果を見てみても、推し活層は、SNSを情報源として利用することが当たり前になっており、日常的にだれかのUGCを見て、楽しんでいると想像できる。

今回のコラムでは、推し活の実態について解説した。他の人に共有したくなる”発見”を切り取り、編集してUGC化し、シェアする。これは、推し活が加速する現代のコンテンツ消費の新しい特徴と言えるだろう。

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*1: この記事では、3次元のアイドルが好きな人たちのうち、推しのアイドルがいて(もしくはグループ全体を推していて)、彼ら彼女らのコンテンツを楽しんだり、応援したり布教したりする活動のことを「推し活」とする。CD、DVDの購入やライブ・コンサートへの参加なども推し活に含まれる。

*2: ここでの「推し活層」は、コンテンツファン消費行動調査2021において「推し活になにかしらお金を使っている」と答えた人と定義。

*3: リアコとは「リアルに恋している」の略で、一般的には、学校や職場での恋愛ではなく、アイドル等に対しての恋愛感情を指す。素に近い状態の画像や動画も増えたため、推し活層に多用されている言葉 (「この写真リアコ感ある!」であれば、親近感のある彼氏っぽいショット、等) 。

*4: 「音楽利用層」とは、コンテンツファン消費行動調査2021にて「過去1年間を振り返って、音楽作品の鑑賞、または、音楽に関連する商品・サービスの購入や利用をしたことがある」と答えた人と定義。

*5: UGC(User Generated Contents)とは、企業ではなく一般ユーザーが作成したコンテンツのこと。SNS等に投稿されている画像や動画などを指す。

「コンテンツファン消費行動調査2021」調査概要
調査対象者:全国5000s
年齢:15~69歳(性別×年代×居住地域の人口構成比に従って割り付け)
調査手法:インターネット調査
調査時期:2021年2月19日~24日
調査・分析:博報堂テクノロジー開発局、博報堂DYメディアパートナーズ メディア・コンテンツビジネスセンター

「コンテンツビジネスラボ」について

独自調査「コンテンツファン消費行動調査」の知見をもとに、近年企業のニーズが高まっているコンテンツを起点とした広告やビジネス設計の支援を行う専門チーム。企業やコンテンツホルダーが実施するコンテンツを起点とした広告コミュニケーションの設計支援や、新規事業・サービス展開のマーケティング支援等を行っている。博報堂のマーケティングプラナーとナレッジ開発職員、博報堂DYメディアパートナーズのコンテンツビジネス開発の専門家などで構成されるメンバーは、スポーツ、ドラマ、アニメ、ゲーム、音楽など、さまざまなカテゴリの熱心なファンでもあり、コンテンツに対する豊富な知見と情熱を有している。

谷口由貴(たにぐち・ゆき)
コンテンツビジネスラボ/博報堂 生活者エクスペリエンスクリエイティブ局

2017年博報堂入社。同年より研究開発局にて研究員として若者研究やARクラウドを用いたサービス開発に従事。また、コンテンツビジネスラボのメンバーとして、エンタメ領域のコンテンツ消費行動研究を行なっており、音楽分野担当として音楽ヒット分析等を行っている。2020年よりマーケティングシステムコンサルティング局にてマーケティングプラナーとしてサービス開発やプロダクト開発に従事。2021年より生活者エクスペリエンスクリエイティブ局所属。DX領域におけるサービス体験設計や、アプリやwebサイトの体験設計を行う。

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