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戦略からクリエイティブまで、一貫してチームを率いる新職名「戦略CD」のアプローチの仕方
(連載:愛されるDXはカタチにできるのか Vol.8)

2021.11.19

「広告朝日」の新連載「愛されるDXはカタチにできるのか」の第8回、博報堂 生活者エクスペリエンスクリエイティブ局 戦略CD 鈴木康司/ クリエイティブストラテジスト 奥野夏帆
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博報堂グループにおいて、クライアント企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を、マーケティングDXとメディアDXの両輪で統合的に推進する戦略組織「HAKUHODO DX_UNITED」。その唯一のクリエイティブ部門である「生活者エクスペリエンスクリエイティブ局」は、“潜在需要を発掘し、生活者の新たな好意・行動を喚起し、よりよい生活、社会を創り出す”といった価値創造型のDXをリードする部門です。キーワードは、「愛されるDXは、カタチにできるか?」。このテーマに取り組むメンバーたちの多様な視点をご紹介していきます。
連載第8回は、博報堂生活者エクスペリエンスクリエイティブ局 戦略CDの鈴木康司とクリエイティブストラテジストの奥野夏帆が登場。戦略CDは戦略からクリエイティブまで一貫してサポートする、2021年4月に誕生した新たな職名です。鈴木と奥野に戦略CDが必要とされる背景や役割、具体的な戦略の立て方などについて聞きました。
※CD:クリエイティブディレクターの略称

中長期的な「事業の成長」のために生まれた戦略CD

──戦略CDとは、どういった仕事なのでしょうか。

鈴木:戦略CDは、戦略を立ててクリエイティブまで一貫して見る立場です。通常多くの業務は、戦略を考えるストラテジストはクライアントの事業部やマーケティング部の方々と、クリエイティブチームのアートディレクターやコピーライターは宣伝部の方々と向き合って仕事をする場面が多いです。

ただ、この状態はストラテジーとクリエイティブがどうしても分断されてしまうこともあるため、アウトプットされたものを見たとき、クリエイティブに戦略が反映しきれていなかったり、イメージが多少なり違ってしまったりすることも時にはありました。

そうしたズレをなくすためにも、構想から発想、実装まで一貫して見る役割として戦略CDという職名が誕生しました。クライアントからも、事業部とマーケティング部、宣伝部を一貫して見てほしいという要望は増えています。

奥野:ストラテジストやクリエイティブディレクターの中には、以前より戦略からクリエイティブまで統括している人たちもいました。構想・発想・実装まで一貫して見ることとは、自分の手も足も動かしながら、将来的な青写真も描いていくこと。その青写真をクライアントと社内、どちらとも共有するとき、戦略CDはハブとなります。大きなプールの中心にいて、必要に応じて浮き輪を選ぶようなイメージです。

鈴木:ハブになるだけではなく、戦略CDに「意志」があることが重要ですね。単なる調整役ではありません。

奥野:能動的なハブですね。プロジェクトを推進するための頭脳となり、自らも動く。スケジュールや予算の管理などは営業担当者と共有しながら、進めていきます。

──なぜ今、構想・発想・実装まで一貫して見ることができる戦略CDが必要なのでしょうか。

鈴木:単発的なコミュニケーションではなく、中長期的な「事業の成長」を求められることが増えているからです。そのためには、戦略からクリエイティブまで一貫して手掛けなければ、成果につながりにくいと考えています。

──表層的なクリエイティブを変えただけでは、中長期的な成果は見込みにくい、という考えですね。

鈴木:そうです。どんなにユニークなキャンペーンで一時的に話題になっても、必ずしも、中長期的な成長に繋がるとは限りません。

──戦略CDはチームの中でどのような役割を担うのでしょうか。

鈴木:クライアントの課題を見つけ出し、解決するための大きな戦略を決めます。それをどういったクリエイティブで実現していくか、クリエイティブチームとともに考えていくというのが大きな流れです。大きな戦略とは、星に例えると「北極星」のように変わらずあり続けるもの。あらゆるフェーズでアイデアの方向性が間違っていないか北極星の位置を確認しつつ、社内のチームメンバーはもちろん、クライアントの方も一緒になってその北極星を目指したいと一丸になれることが重要です。

奥野:クライアントの課題によってオーダーメイドで応えていくので、一つの方法論で語りにくい仕事だと思っています。私たちに求められているのは、本質的な課題を探ること。そのために欠かせないのが、世の中の兆しを捉えることだと思います。ポイントは、クライアントに関連するあらゆるデータの読み解きやヒアリングなどを行いつつ、一見すると関係なさそうな世の中のデータや生活者のインサイトもウォッチすることです。それらを掛け合わせることで、クライアントが想定していたことよりも、さらに上位レイヤーの課題の抽出ができた案件もありました。

──世の中の兆しや生活者のインサイトを捉えるために、工夫していることはありますか。

鈴木:意識していることは、クライアントが考えていることの半歩先の提案です。そのためには、兆しを捉え、先読みをすることが重要になります。今はSNSがあるので、世の中のムードはつかみやすくなっています。例えばビールの仕事なら、コロナ禍で飲み方はどう変わったのかなどをSNSでチェックしています。以前であればマーケティングリサーチを行ったり、人に聞いたりしていましたが、今はSNSの分析にも力を入れています。

奥野:私もSNSはかなり活用しています。ジャンルを明確に分けてアカウントを使い分ける工夫もしています。SNSのアカウントは、全て合わせると10個以上保有しています。フォローする人もクリックするコンテンツも、意図的に変えています。そうすると入ってくる情報も変わるので、タイムラインを見るだけで流れをつかむことができます。新しいプロジェクトに参加したら、そのジャンルのアカウントをつくることから始めます。もちろん、精度は100%ではないので、ざっくりとつかんだ兆しを能動的に深掘りしています。

鈴木:僕らの強みであり、クライアントから頼りにされているのは、生活者発想を軸にしていることだと思います。

奥野:データ分析や収集は目的ではないので、その先に何を、どう見るのかが重要ですね。そのためには、世の中の動きに敏感で、面白がれる感度を持つこと。人やものに対する突き詰め力やスルーしない力は必要なのかなと思っています。

戦略とクリエイティブとの関係

──具体的に戦略はどのように立てていくのですか。

鈴木:戦略CDとしてのアプローチの仕方は二つあります。一つは、戦略にクリエイティビティを持たせること。もう一つは、アウトプットするコピーやビジュアルなどのクリエイティブに戦略性を持たせることです。

戦略にクリエイティビティを持たせるには、奥野が話したように、クライアントが思っていなかったような課題や世の中の兆し、生活者のインサイトを基に、面白い課題設定を行います。そうすると、今までになかったような解やアイデアが生まれる可能性が高まります。それが、構想・発想・実装の、構想と発想です。

実装の段階で考えるべきことは、アウトプットするクリエイティブに戦略性を持たせることです。最終的なアウトプットが、論理的につながっている必要があります。難しいのは、論理的につながっていることは最低限絶対に必要なことで、それに加えておもしろかったり、ワクワクしたりする等論理を超えたものも必要になってきます。

そういった部分をしっかりと担保するためにも、アートディレクターやコピーライター、テクノロジストなどを巻き込みながら、どうやって実装していくべきか考える。つまり、戦略CDは、一人では成り立たない仕事とも言えます。

奥野:たとえば「売り上げを伸ばしたい」という要望があったとしても、課題を深掘りすると、結果的にパーセプションチェンジまでが必要なケースもあります。短期的な売り上げを伸ばしつつ、抜本的な課題にも取り組むために、あえて「すぐに解決できない課題設定」を提案することもあります。中長期的な視点で考えた戦略となるので、「1年目にはこういう打ち出し方をして・・・」と直近のアウトプットも伝えます。構想と実践を行ったり来たりしながらプロジェクトをけん引していくのも、アウトプットを見据えている戦略CDだからできることだと思います。

──売り上げが伸びない理由を探り、課題を見つける。それをクリエイティブで解決していくのは、容易ではなさそうです。

奥野:私は、課題を分かりやすく言語化することは、戦略上必須であると同時に、実はクリエイティブの一つだと考えています。

クライアントが気づきつつも、うまく表現できていない課題とか、そもそも気づいていないことなどを言語化することで、チームの目線を合わせることができます。

鈴木:ある仕事では、売り上げが伸びないという問題に対して、ユニークな課題を抽出し、それを解決するために目指すべき北極星を明確にした上で、キャッチコピーを開発しました。そのコピーによって、クライアントの担当者と博報堂のメンバーはもちろん、プロジェクトに参加していないクライアントの社内の方々にも目指す方向性を理解してもらえて、「そのために、自分たちはこう変わっていこう」と新たなサービスも誕生しました。

奥野:課題を解決するためのストーリーテリングも重要ですね。クライアントの社内や、世の中に散らばっていた情報を整理し、情報の羅列ではなく、ストーリーにして伝えていく。その能力も戦略CDには必要だと思います。

──最後に「愛されるDXをカタチにできるのか」という連載のテーマについて、ご意見をお聞かせください。

鈴木:「愛されるDXをカタチにする」というテーマには、愛されるDXを考えるだけではなく「カタチにしよう」というメッセージが込められており、構想・発想・実装を全て手掛けることを意味していると理解しています。生活者エクスペリエンスクリエイティブ局に所属する各分野の専門性を持ったクリエイターとともに、愛されるDXをカタチにするまでやれることは、たくさんあると思っています。

愛される=人がワクワクしたり、幸せになったりすること。生活者に愛されるDXでなければ、使ってもらえないし、生活にとけ込むこともないはずです。本質的な課題解決のためには、こういうDXが必要なのだとクライアントも僕らも納得できていないと実現できません。冒頭でお話したように、クリエイティブな戦略が必要なのです。

奥野:DXは、効率化だけとは限らないとも思っています。非効率だけど、生活者をワクワクさせたり、ドキッとさせたりする、良い意味での「ざらつき感のあるDX」もある。そんな新しいDXも実現していきたいと考えています。

鈴木康司(すずき・こうじ)
博報堂 生活者エクスペリエンスクリエイティブ局 戦略CD

2007年博報堂入社。ストラテジックプラニング職として、商品開発、ブランド戦略、コミュニケーション立案に携わる。20年よりクリエイティブストラテジストとして、戦略から戦術まで一貫したディレクションを行う。21年より戦略CD。海外在住経験を活かし、グローバルブランドや企業の海外展開および日本参入プロジェクトにも多数参加。

奥野夏帆(おくの・かほ)
博報堂 生活者エクスペリエンスクリエイティブ局 クリエイティブストラテジスト

2013年博報堂入社。入社以来ストラテジックプラニング職として、様々なカテゴリーでのプロダクト開発、ブランド/コミュニケーション立案を担当。
関西支社への赴任経験を経て、戦略とクリエイティブを一貫して担うクリエイティブストラテジストとしての役割が増加。データ×クリエイティブの推進や産学連携プロジェクトなど、開発系の業務も多数経験。

※「ウェブ広告朝日」より転載
(21-3049 朝日新聞社に無断で転載することを禁じます)

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