「広告朝日」の新連載「愛されるDXはカタチにできるのか」の第11回、博報堂 生活者エクスペリエンスクリエイティブ局 ビジネスプロデューサー 矢田彰仁の記事が掲載されました。
──矢田さんは、デジタル動画制作チーム「.QuickMovie」に属し、マネジメントを担当されています。日頃、どんな業務を手掛けているのですか。
主に運用型の動画やバナー広告の制作をしています。運用型というのは、クライアントが求める広告の成果を出すために、クリエイティブをカスタマイズして、最適な表現を見つけ出す手法です。昨今のデジタル広告は、飽きられるのが非常に早い。数日前に公開したものでも、すぐに古いと思われてしまいます。そのため、次々と新しい広告をつくる必要があるのですが、それではクライアントの制作費がかさみ、費用対効果が下がってしまいます。
そもそも、テレビCMほどの費用を掛けなくても、Web用の動画広告は制作できます。ただ、どんなに気合いを入れて1本の動画広告を制作したとしても、先ほどもお話ししたとおり、一瞬で廃れてしまう恐れがある。そこで「.QuickMovie」では、できるだけ予算を抑えながらも、複数の動画広告を制作し、クライアントが求める成果につながるように動画やバナー広告のクリエイティブを「運用」しています。
──具体的にどうやって、クリエイティブを運用していくのですか。
デジタル広告では、1種類の動画広告を流し続けていると、確実にCTRは下がっていきます。しかし、これまでの経験から動画の背景の色味やデザイン、テロップなどをカスタマイズすると、CTRは下がったり上がったりしながらも、ある一定数を維持できることが分かっています。例えば、今週は5本公開して、その中で結果が良かったものをカスタマイズして、また公開する。その結果を見て・・・というのを繰り返すのが、クリエイティブの運用です。あらかじめ動画は一度に何パターンも撮っておきます。ポイントは、生活者に「どこか新しい」と思ってもらうことです。
──クライアントが求める成果は、どういった内容が多いのですか。
資料請求数を増やしたい、ECサイトで特定の商品を売りたいなど、クライアントによってさまざまです。資料請求数をKPIに設定している場合、そこから逆算して、どのくらいWebサイトに流入させる必要があるか決まります。そのためにどのSNSやデジタルプラットフォームで広告を掲出すべきか提案し、クリエイティブを運用しながらCTRを上げていきます。
動画広告の難しさは、正解がないこと。成果が出たクリエイティブが、正解なのです。とはいえ、ある企業で成果が出た表現が、別の企業で応用して同じ成果がでるとは限りません。とにかく発信してみないと分からないので、クライアントには「正解を一緒に探しませんか」と提案しています。
──動画広告を発信するメディアによって、画面の縦横比率が違うこともありますよね。どうやって調整しているのですか。
SNSや動画サイトなど、発信する場所ごとにサイズや画面の縦横比率は調整しています。テレビCMの画面の縦横比率は9対16ですが、SNSは1対1。テレビCMをそのまま動画広告として流すと、余白ができてしまいます。見栄えが悪いので、余白部分に動画広告で伝えたいことをコピーや写真で入れたり、Webサイトへの導入を促すギミックを加えたりして、作り替えています。その際も、コピーや写真違いのパターンをいくつか制作し、CTRを比較して検証していきます。
──テレビCMを元に編集することもあるのですか。
一般的に、テレビCMは編集せずにそのまま動画広告として流すことが多いと思います。しかし、編集せずそのまま発信すると、成果につながりにくいのです。だから僕らは、テレビCMを素材として提供していただいた場合、できるだけ編集して使用しています。そもそも、テレビを見ている時と、SNSを見ている時は、視聴態度が違いますよね。受動的に視聴しているテレビCMと比べ、フェイスブックは能動的に見ているものなので、興味のない広告が流れてくるとスルーされる可能性が高いと考えています。
──スルーされないために、工夫していることは。
理想はスルーされず、最後まで視聴してもらうこと。それは動画広告にとって、永遠の課題です。YouTubeで流す広告は途中でスキップされることを前提に、テレビCMでは最後に伝えていたことを冒頭に編集し直すことがあります。オリジナルの動画を制作するときは、Q&A方式や悩みを解決するシリーズなど、切り口は12パターンくらい用意しています。
伝わる動画を目指し、動画の構成は、ターゲット、悩み、サービスの特長やメリット、ベネフィット、インセンティブ、行動喚起(CTA)など要素を分解して考えています。それぞれの要素を羅列して整理しておくと、「今回準備している動画の組み合わせ」も一目瞭然。クライアントとも共有しやすく、合意も取りやすい。そして「次はこのターゲットと、この悩み、このベネフィットを組み合わせて・・・」といった具合に、作り直しもしやすくなります。
──成果に合わせて作り直す、つまりPDCAを回していくということですよね。
PDCAを回しやすくするために、ターゲットごとに、冒頭、中盤、終盤の各シーンをブロックに分けて考えています。例えば、サービスを知らない人には、まず「サービスの紹介」から始まり「使用シーン」「インセンティブ」「CTA」という順番にする。一方、サービスを知っている人には、冒頭に「サービス名」をいれて、「インセンティブ」「使用シーン」「インセンティブ」「CTA」という流れにする。同じ動画でもシーンのブロックを入れ替えることで、ターゲットにあった内容にアレンジできるのです。
──動画広告は、静止画を組み合わせて作ることもありますよね。
動画=撮影と思われがちですが、静止画のほか、イラストでつくることもあります。テレビCMまでは制作できないブランドも、動画広告なら出せるというケースも少なくない。最近は、できるだけ効果的なテレビCMを作るために、Webで動画広告をいくつか流して、反応が良かった企画を採用するというケースもあります。
ファネルで考えると、僕らが作っているのは、ミドルとローワーをつなぐ中間地点くらい。メッセージを伝えてミドルファネルに対して興味喚起もするし、コンバージョンまでの後押しにもなる。そんなポジションだと考えています。
認知からコンバージョンまで、ブランドの世界観やトーンを合わせていくためにも、同じ生活者エクスペリエンスクリエイティブ局に所属していて、フルファネルを統括する戦略CDの役割は大きい。具体的な制作は、各パートのプロフェッショナルに任せることで、よりクオリティーの高いものになるはずです。
──この連載のテーマでもある「愛されるDX」に必要なことは、なんだと思いますか。
愛されるという定性的な目標に対して定量的な目標を持たせる事と思います。愛されると感じることは人それぞれ価値観が違います。価値観を統一させることは難しいですが人それぞれの価値に対してどういったメッセージが心に残ったかをデータを見ることで数値的に見極めることができると思います。その数値目標を達成させるためにチームとしての役割とメンバーに対しての指針を示すことと考えます。そのためにもチームづくりが欠かせないと思います。僕らが目指しているのは、ひとりのクリエイターの才能に依存せず、チームとして自走すること。映像制作は職人的な仕事ですが、一人で抱えられる仕事の量は限られており、分業できることは分業するようにしています。まだ道半ばではありますが、理想は誰が手掛けてもクオリティーが高く、結果が出せること。そのために、要素分解して構成を考える方法や、ブロックの差し替えによってPDCAを回す方法など、できるだけノウハウはロジカルに仕組み化して、メンバー全員に共有しています。
2001年にネットベンチャー広告会社に入社。ネットメディアの仕入れ、営業やクリエイティブ制作に傾倒し、デジタルメディアプランナー、デジタルクリエイティブ職を経て、2018年博報堂デジタル(現デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム)へ入社。運用型広告の運用、制作部門それぞれのマネージャーを経て、2021年より生活者エクスペリエンス局に所属。
※「ウェブ広告朝日」より転載
(21-3049 朝日新聞社に無断で転載することを禁じます)
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