こんにちは。ヒット習慣メーカーズの江です。
各地で大雪に見舞われ、まだまだ寒い日が続きますが、いかがお過ごしでしょうか。
先週は人混みを避けて、平日に有休を取って、日帰りスキーツアーを利用して北関東エリアのスキー場に今シーズン初滑りを楽しんできました。何分久々なので感覚を取り戻すのも一苦労でしたが、雪の上を緩やかに滑るだけでも心が躍り、今度もっと難しいコースに挑戦してみたいなという気持ちが芽生えてきます。
さて、ウィンタースポーツへの強い関心をタイムリーに捉えたい今回の私のテーマは、中国における「氷雪熱潮」です。「氷雪熱潮」とは、中国語で“冰雪(=氷と雪、冬)”のシーズンに、今まで馴染みの薄いウィンタースポーツを楽しむ(楽しみたい)、“熱”い“潮”流に乗り始めたことを意味しています。
ここ10年間でBaidu指数をみると、ウィンタースポーツをメインに置く氷雪関連テーマの旅行(中国語で“冰雪旅游”)への関心は、じわじわと上昇傾向にあり、2022年が近づくにつれ、一段と注目を集めていることが見て取れます。
中国政府は国を挙げて盛り上げるべく、ウィンタースポーツ人口とウィンタースポーツに関わる人を合わせて、2025年までに3億人まで増やすことを目標として掲げています。SNSの投稿を覗いてみると、実家の湖南省長沙市、広州や上海など、雪がほとんど降らない中国南部の都市に住む友人・知人も、初めてスキー場のある遠方まで出かけた人もいれば、続々開業している近場の屋内スキー場をファミリーで利用する人も、この2年間突如現れてきた印象があります。いろんな中国大手プラットフォームが直近発表した検索数の多いキーワードのランキングを見ると、「氷雪」を含めたワードの検索数が急上昇していることからウィンタースポーツへの熱狂ぶりが伝わってきます。
各種生活サービスを提供する中国大手プラットフォーム日本支社長を務める知り合いに話を聞いても、コロナ禍終息後のインバウンド市場を見据えて外国人観光客誘致策を検討している地方自治体からの引き合いが増えてきているそうで、“爆買い”の次に、“爆滑り”という流行語が新たに生まれるのでしょうか。
これまで中国において、スキーやスノーボードなどのウィンタースポーツは、スキー場などの施設が充実している日本やヨーロッパ諸国をよく訪れるような富裕層のレジャーというイメージが強かったです。しかし近年、ウィンタースポーツ施設の増加によりハードルが下がったため、大都市在住の新中間層に浸透し始め、特にアクティブな20代-30代の間では、仲間同士での週末スキーがかなり流行っているようです。
ではなぜ、中国の新中間層、特に20代-30代の間で「氷雪熱潮」という新習慣が広がっているのでしょうか?
まず、何と言っても、過去に味わったことがない、ウィンタースポーツそのものがもたらしてくれる非日常的な体験にあります。中国では、20代-30代の新中間層が置かれている環境を象徴する「内巻」という流行語があります。コミュニティ内での過剰な競争のことで、職場、学校、社会生活などあらゆる所で出現し、社会経験の少ない20代-30代の新中間層をストレスで押しつぶそうとしています。スキー場のような日常から離れた山の中へ行くと、そこから見える壮大な景色が非日常的で美しく、日々の雑踏を忘れ、思わず心が洗われリフレッシュできます。また、風を切って滑走する時の爽快感や達成感も格別です。そうして普段の生活のしがらみやストレスから思いっきり解放されるので、ウィンタースポーツはストレスフルな彼らにとって、もっと必要不可欠なものになってくるかもしれません。
そしてほかには、ウィンタースポーツが行われるゲレンデが社交場として若者に捉えられているのも大きな要因の1つだと考えます。以前のコラム『野餐@中国』でも触れたことがあるように、中国では、生活に余裕がある80後や90後世代(1980年代後半〜1990年代生まれの20〜30代)を中心に、数年前から空前のアウトドアブームが続いています。開放的なゲレンデでスキーやスノーボードを一緒に滑ったり、教え合ったりできるので、会話もはずみ、自然と距離も縮まります。恋人同士でも、ビジネスパートナーと一緒でも、リフトにペアで乗ることが多いため、開放感がありながら密室とも言える不思議な空間の中で、関係性が深まりやすいのではないでしょうか。
最後に、「氷雪熱潮」のビジネスチャンスについて、少し具体的に考えてみました。
私も日本に来てから初めてスキーを体験したのですが、未だに初級者のレベルにとどまっています。中国から友人たちが遊びに来られるようになったら、颯爽と“爆滑り”する姿を見せられるように、練習を積み重ねていきたいと思う今日この頃です。
▼「ヒット習慣予報」とは?
モノからコトへと消費のあり方が変わりゆく中で、「ヒット商品」よりも「ヒット習慣」を生み出していこう、と鼻息荒く立ち上がった「ヒット習慣メーカーズ」が展開する連載コラム。
感度の高いユーザーのソーシャルアカウントや購買データの分析、情報鮮度が高い複数のメディアの人気記事などを分析し、これから来そうなヒット習慣を予測するという、あたらしくも大胆なチャレンジです。
2017 年博報堂に中途入社。
近いようで遠い中国のヒット習慣から仕事のヒントを探す日々。
中国で一番辛いと言われる故郷の湖南料理をこよなく愛する、生粋の「辛党」。