中央左:尾崎徳行
博報堂 生活者エクスペリエンスクリエイティブ局
クリエイティブディレクター
hakuhodo-XR リーダー
左:大久保重伸
博報堂 第三ブランドトランスフォーメーションクリエイティブ局
チーフアクティベーションディレクター
右:佐々木めぐみ
博報堂DYメディアパートナーズ エンタテインメントビジネス局
コンテンツプロデューサー
中央右:庄司健一郎
博報堂 生活者エクスペリエンスクリエイティブ局
エクスペリエンスディレクター
──コロナ禍以降、XRへの注目が高まっていますね。
尾崎
コロナ以前からXRの実証実験などは行われていましたが、コロナ禍によってXRの実装に向けた動きが加速しています。ソーシャルディスタンスが求められ、現実世界でのコミュニケーションが制限される中で、最初に着目されたのがVR(仮想現実)でした。その後、AR(拡張現実)を活用する試みも増えています。今後は、VR、AR、MR(複合現実)が混在する形で実用化が進んでいきそうです。
佐々木
コロナ禍で生活者の価値観が変わりましたよね。バーチャル空間でのコミュニケーションが日常化してきて、リアルとは異なる体験を楽しむ人が増えています。この流れが元に戻ることはないと思います。
庄司
技術の進化も加速していて、さまざまなプレーヤーがメタバースを始めXRに関する技術開発にしのぎを削っています。1月にラスベガスで開催された技術見本市「CES2022」も、メタバース関連の技術展示が非常に多く、メタバース祭と言っていいほどでした。
大久保
クライアントからも、「XRを使った新しい顧客体験をつくれないか」といったご相談が増えています。まだまだ手探りのところもありますが、ビジネスにおけるXR活用への注目度が高まっていることを感じますね。
──「hakuhodo-XR」というグループ横断型組織がつくられた経緯と、この組織のミッションをお聞かせください。
尾崎
博報堂DYグループの各社がもっている研究・開発、ソリューション開発、プランニング、クリエイティブ・制作、IP・メディア開発などといった多様な力をまとめて、XRの技術によって新しい価値を生み出していくための枠組みがhakuhodo-XRです。この取り組みがスタートしたのは、コロナ禍以前の2016年で今の形になったのは一昨年7月でした。現在、グループ9社、総計50名ほどのメンバーでXR領域でのさまざまなトライアルを進めています。
hakuhodo-XRは、「まじわる世界で、まだない解を。」というビジョンを掲げています。僕たちはこれまで、主に広告コミュニケーションに関わるアウトプットを生み出してきました。リアルとバーチャルが交わっていく世界では、これまでにない生活者とのインターフェースが必要とされるようになります。従来の広告やメディア、あるいはビジネスの枠組みを超えて、新しいインターフェースをつくり、新しい生活者体験を生み出すこと──。それが僕たちのミッションであり、そのためのツールがXRです。
──テクノロジー専業の企業ではない博報堂がXRに取り組む意味はどこにあると考えていますか。
尾崎
確かに博報堂DYグループはテクノロジー専業の企業ではありませんが、これまでデジタル領域でさまざまな広告企画やサービス・ビジネス開発を手掛けてきました。グループの中にはエンジニアリングの機能をもったチームや企業もあります。そういったグループ内の経験知やリソースをXRという大きな可能性のある領域に生かしていくことによって、ビジネスを大きく拡張することができる。それが、僕たちがXRに取り組みことの一つの意味です。
もちろん、グループ内のリソースだけでXR領域のあらゆる事案に対応できるわけではありません。スタートアップの皆さんなどとアライアンスを組み、外部のプレーヤーの力をお借りしながら、できることの幅を最大限広げていきたいと考えています。
──一方、外部のプレーヤーとは競合関係になることもありますよね。テクノロジー専業企業などと比べた場合のhakuhodo-XRの強みはどこにあると考えられますか。
尾崎
新しいテクノロジーを活用する際は、とかく「仕組み発想」になりがちです。プラットフォームなどの仕組みをつくれば使ってもらえるだろうといった発想です。しかし本当に大切なのは、そのテクノロジーを活用することで生活が便利になったり、楽しかったり、嬉しかったりすることです。「テクノロジーで何ができるか」と考えるよりも、「テクノロジーは生活者にどのような価値をもたらすか」という発想で新しいものを生み出していくことができる。それが僕たちの一番の強みだと思います。
大久保
生活者発想と技術を掛け合わせて、新しい生活や行動のデザインをつくるということですよね。そこに生まれる生活者体験こそが重要であると僕たちは考えています。
庄司
それが可能なのは、グループ内に多様なリソースがあるからです。研究・開発からプランニング、クリエイティブ、施策の実行、効果検証に至るあらゆるプロセスに対応できるプレーヤーは、ほかにあまりいないと思います。
佐々木
XRは新しい生活者体験を生み出したり、クライアントが新しい収益を生み出したりするための1つの手段です。私たち自身がクライアントやメディアの事業パートナーとなって新しい価値を生み出すためにどうXRを使うか。そういう視点も大切だと私は考えています。場合によっては、価値を生み出す最良の方法がXRではないかもしれません。その際は、別の最適な解を探していくことが必要です。
尾崎
僕たちのベースにあるのは、XRへの取り組みは企業やブランドのDX(デジタルトランスフォーメーション)の一貫であるという考え方です。博報堂DYグループは「価値創造型のDX」というビジョンを掲げています。平たく言えば、「愛されるDX」ということです。効率性のみを重視するのではなく、人間が持つ感情までを織り込んで、新しいトキメキと愛着を生み出すこと。時に無駄なことや遠回りする方がかえって愛着を生んだりするものだと思います。僕たちが目指すのは、そのようなDXの一つとしての「人間味のあるXR」を生み出していくことです。そんな視点を大切にしていることも、hakuhodo-XRの独自性と言えると思います。
──現在、hakuhodo-XRが取り組んでいる具体的な領域をお聞かせください。
佐々木
私が所属している博報堂DYメディアパートナーズのエンタテインメントビジネス局は、アニメ、スポーツ、舞台・展覧会、ゲームなど、さまざまなエンターテインメント分野の事業者の皆さんと協業を行っています。例えばアニメでは、オンラインコンテンツを保護する仕組みであるNFT(非代替性トークン)を活用したコンテンツ開発など、先進的な取り組みにも積極的にチャレンジしています。そのようなコンテンツビジネスにXRを組み合わせ、マネタイズに結びつく仕組みをつくっていく構想を現在進めています。
庄司
僕が担当しているのは主にメタバースとアバターの領域で、メタバース空間で新しい生活者体験をつくっていくことをミッションとしています。簡易にメタバース空間を作成できるソリューションの提供や、ブランディングを重視したリアルな空間の制作など、目的に合わせて体験を設計していく手法を準備しています。
大久保
僕は比較的クライアントに近い立ち位置で、クラインアントの課題に対応する案件を担当しています。ニーズを伺いながら、プロモーションやコンテンツ展開にどうXRを活用するかを考えていく役割です。クライアントから寄せられる課題には具体的なものだけでなく、「XRに興味があるけれどどう活用していいかわからない」といったケースもあります。そのようなご相談に対しても、hakuhodo-XRの各領域のプロと話し合いながら、最適な解をご提案していくようにしています。
尾崎
先にも話が出たように、研究・開発領域のメンバーが加わっているのが、hakuhodo-XRの特徴の一つです。研究・開発担当の主な役割は、XRに関する技術開発やプロトタイピングですが、それに加えて、業界の他のプレーヤーや国と一緒にXR活用のルールをつくっていく役割もあります。
例えば、ARはリアルな空間に対してバーチャルな情報を加えていく技術ですが、リアルな建物の壁にバーチャルな広告を掲示する際の許諾の取り方など、細かなルールはまだ定まっていません。今後、さまざまな関係者とコンソーシアムを組むなどして、XR活用の社会的コンセンサスづくりにも取り組んでいきたいと考えています。
──XRに関して、クライアントからはどのような相談が寄せられていますか。
尾崎
現在お問い合わせやご相談が多いのは、通信業界、流通業界、アパレル業界、商業施設、航空業界などですね。5GとXRを組み合わせたサービス開発、XRを使ったバーチャル店舗、バーチャル旅行のような新しいコンテンツづくりなど、XRを使った新しい価値創出に積極的にチャレンジしようとされているクライアントが増えています。
庄司
メタバースというワードへの注目も高まっていますが、僕たちは2016年からその領域に取り組んできているので、「メタバースで何かやりたい」というざっくりしたご要望をいただいた場合でも、さまざまなご提案をすることが可能です。関心があればどんどんご相談をいただきたいと思っています。
大久保
XRを使って新しい顧客接点をつくりたいというご要望も多いですね。ブランド体験のツールとしてのXRには大きな可能性があります。その可能性を顧客とのコミュニケーションにいかしたいというご要望です。
佐々木
エンタテインメントビジネス局では、クライアントにも事業に参画していただいて、新しい事業を共創していくという動きが進んでいます。そのような共創パートナーの中にも、XRの技術に興味をもつクライアントが増えています。今後、XRを活用した新しいコンテンツ事業が生まれていく可能性は大いにあると思います。
──今後に向けての意気込みをお聞かせください。
庄司
社会的に注目を集められるような新しいソリューションを開発していきたいですね。「博報堂」という名前でXRを想起していただけるようなレピュテーションを獲得していくためのチャレンジを続けていきたいと思います。
大久保
現在のところ、XRへの取り組みは各企業が個別に進めています。それらの取り組みを連携させて、より大きな価値を生み出していくことが現在の目標です。異なる企業間のコネクションをつくれることが僕たちの強みです。その強みを最大限に発揮していきたいと考えています。
佐々木
私は博報堂DYグループがもつクリエイティブの力は抜きん出ていると思っています。XRという技術を軸として、その力をコンテンツホルダーなどの力と組み合わせることができれば、今以上のクリエイティビティを生み出すことができるはずです。その可能性をこれから追求していきたいですね。
尾崎
企業の皆さんとお話をしていると、XRには非常に大きな可能性があると感じます。例えば、バーチャル店舗には身体が不自由な方でもいつでも訪れることができるし、逆に販売員として接客することも可能です。また、バーチャル空間を通じてアバターでコミュニケーションをとることで、国籍や人種や性別を超えた人々の交流も可能になるでしょう。つまり、XRはバリアフリーやダイバーシティ実現の大きな可能性になりうるということです。
そう考えれば、「ソーシャルインクルージョン(社会的包摂)のインフラとしてのXR」という視点も今後は非常に重要になると思います。ビジネスやエンターテインメントのツールとしてのXRを開発して人々と熱狂させていくとともに、社会価値を生み出すためのXRにも取り組んでいきたい。そう考えています。
多様なクリエイティブ領域の経験を活かして、新しい体験価値の創造を実践している。10年来の新幹線通勤から、現在、リモート通勤生活に。伊豆好きの4児の父。
20年以上、企業のプロモーションやアクティベーション施策を手掛ける。デジタルやキャラクターを活用した体験開発を行い、お客様に喜んでもらってきた。博報堂イチのキャラクターマニア・テーマパークマニアでもある。
ビジネスプロデューサーとして、鉄道・通信・化粧品会社を担当。オールラウンドでアカウントディレクション・プロジェクトマネジメントに従事した後、2020年4月より現職。アニメ・映画・舞台・展覧会・ゲーム制作・ドラマ制作等、幅広くコンテンツ事業に取り組み、エンタテインメントの新しい体験価値創造に邁進中。
外資系広告エージェンシーなどを経て、2019年9月に博報堂に入社。リアル・デジタル融合の体験設計を得意とし、hakuhodo-XRではメタバース空間での新しいブランド体験の実証実験のプロジェクト等に従事している。