「広告朝日」の新連載「愛されるDXはカタチにできるのか」の第24回、博報堂 生活者エクスペリエンスクリエイティブ局 コピーライター 尾形瞬の記事が掲載されました。
連載第24回は、博報堂生活者エクスペリエンスクリエイティブ局 コピーライターの尾形瞬が登場。コピーライティングを軸にテレビCMからデジタル動画広告など多様な企画を得意とする尾形に、愛されるDXに必要なクリエイティブとは何か聞きました。
──テレビCMとデジタル動画広告など多様なメディアを手掛けていらっしゃいます。テレビCMとデジタルの動画広告では、コピーの考え方は違うのでしょうか。
考え方はメディアによって異なります。デジタルの動画広告は6秒で終わるものや、スキップされる可能性があるので、それを踏まえて検討する必要があります。基本的には6秒で言いたいことを伝えつつ、何かしら関心を持ってもらえるようにコピーをまとめる。それが企画の芯となるコピーの場合もあれば、アテンションのフェーズにふさわしいコピーの場合もあります。
──クライアントからはどういった相談が多いのでしょうか。
Z世代との関わり方についての相談は増えている印象です。最近もある企業の仕事で、Z世代と接点を持つためのデジタル施策を手掛けました。その企業が訴求したいものはZ世代には関心を持ってもらいにくいものでした。価値をストレートに表現しても、「自分には関係ない」と拒絶される可能性は高い。そこで、誰もが共感できる課題をインサイトとして抽出し、Z世代向けに愛される「キャラクター」を考案しました。複数登場させるキャラクターがそれぞれに抱える課題を解決する方法の一つが、クライアントの商材であるというストーリーにして、自分ごととして捉えてもらえるように工夫しています。
──万人が抱える課題を、Z世代に受け入れられやすいキャラクターにするという発想がクリエイティブですね。
生活者のひとりとして、私は「広告が大好き」という人間ではありません。だけど、「面白い!」「これなら見たい!」と思える広告はあります。ウェブの動画広告を例にとると、自分が見たいと能動的にアクセスした動画の合間に流れるものなので、6秒も待たれずスキップされる可能性は高いです。そうした状況を踏まえ、博報堂のストラテジストは、ターゲットとする年代から戦略を考えるなど、広告の提案イメージを具体的な内容にしてくれます。ただ、その戦略をそのまま表現すると、正しいけど面白いものにはなりにくく、好きでも嫌いでもないものになりがちです。戦略の成果を出すためにも、クリエイティブの力が欠かせないと考えています。
──コピーを考える上で、市場データや調査結果などはどのように活用されていますか。
参考にはしていますし、指針の一つになるとは思っていますが、私が企画するときに最も大切にしているのは、「お茶の間目線」です。
──プロとして広告業界で働きつつ、「お茶の間目線」を持ち続けるのは容易ではないと思います。
それは私に限らず広告業界で働く多くの人が抱える悩みでもあります。たとえば、表現について「このアングルがいいんだよ」など、細部に満足しがちです。もちろん、ディテールにこだわって制作することは、とても大切なことです。とはいえ、例えば自分がこだわったポイントを家族や友人に話しても「ふーん、そうなんだ?」とあまり響いていなかったり。逆に意図していなかったポイントを面白いと言ってくれたり。そういう目線が一般的な感覚なのかなと思います。その感覚を持ち続けるために、一般の方の意見を積極的に拾いにいったり、家族や友人の感想を求めたりと、目線を合わせるように努めています。
──SNSはどのようにチェックされていますか。
一通りどれも見ていますが、特に意識しているのは、若年層の使い方です。40代以上でもSNSを活用している人は増えていますが、10代や20代とは使い方が違ったりする。その使い方のズレを把握しておくようにしています。
フォローする人は、友人や知人、同じような趣味の人が多いですよね。投稿の内容や表現の仕方なども似ていることが多いので、私はあえて「おすすめ」を深掘りしていき、自分の趣味や好みの範囲をできるだけ広げながら、見るようにしています。
どんな広告でも今はメディアに合わせて表現の最適化が必要です。SNSといっても年代によって使い方が違うし、適した表現も違う。SNSはテレビCMよりライブ感を出せるので、TwitterではCMの撮影現場でのエピソードを投稿したり、Instagramでは起用したタレントの自撮り写真を投稿したり。そういったアイデアを考える上でも、今のSNSのトーンやトレンドとなっている表現などを把握しておく必要はあると思います。
──SNSでの発信やリアクションは、企業も注目していますね。
インパクトのある発信がしたいと意欲的に取り組んでも、「前例がない」とか、「データでの検証が取れていない」など、さまざまな要因で挑戦できないケースも少なくありません。そうした状況のとき、いかに説得できるかも広告会社の仕事だと思っています。コミュニケーションのプロが言っているから、信じてやってみよう――私自身がそんな風に思ってもらえる人になることが理想です。そのために必要なのは、実績だと思っています。実績とは、広告賞の受賞というものではなく、いかにクライアントの課題解決ができたかどうかです。
──どういったクリエイティブが実績につながると思いますか。
「シズル」がやはり大事だと思っています。食べ物に限った話ではなく、たとえば、「友人とコントローラを奪い合いながら1つのゲームを楽しんでいるシーン」は、ゲームをやりたくなるシズルがある表現だと思います。ゲームをやったことがない人でも、やってみたくなる。そういったシズルのある「本能に訴えかけるクリエイティブ」が実績につながると考えています。食べてみたい、使ってみたい、手に入れたい。そう思わせるシズルから考えていくようにしています。この考え方は、師匠の一人でもあるエグゼクティブ・クリエイティブディレクターの髙田毅さんから学んだことの一つです。
──それはテレビCMでもデジタルでの動画広告でも共通しているのでしょうか。
共通していてほしいと思っています。本能的にいいと思える表現を大切にしたいです。かつてはみんなそこを重視していたはずなのに、広告制作の現場にデータや調査といった概念が入ってきて、「どうやら確からしい」データが重視されるようになりました。データの扱い方に慣れてきて、「それだけが確かとは限らない」という考え方も浸透してきたのが今だと思っています。
──最後に、愛されるDXのためには、何をすべきだと思いますか。
DXだけなら博報堂以外の企業でもできます。私たちが目指すのは、DXは当たり前にできて、その上で「愛される」ためのクリエイティブを提案すること。そもそも「愛される」とは何か。誰にどう愛されるべきなのか。そこを深掘りする必要があると思います。みんなに好かれようとすると、八方美人になってしまいますからね。DXはあくまでツールです。どんなにデザインツールをマスターしていても、優れたデザインができるかどうかは別の話ですよね。ツールが使えることが目的ではなく、目的は別にあって「何をつくるか」ということです。
また、愛されるためにデータだけに頼らず、自分の感覚で本能に訴えかける表現を考えたいと思っています。データを敵視せずに味方につける。「この方向性もデータから検討できる」といった風にクリエイティブを理解してもらうためにも、データはうまく活用していきたいと思っています。
2015年武蔵野美術大学空間演出デザイン学科卒業、同年博報堂入社。
コピーを軸としたTVCMの企画が得意分野。人の心を動かすシズルを大切にすることを信条としている。
※「ウェブ広告朝日」より転載
(21-3049 朝日新聞社に無断で転載することを禁じます)
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