DE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)の波を肌で実感しました。初の審査員として参加したカンヌで目の当たりにしたのが、審査員の「多様性」です。年齢・性別・国籍の多様性はもちろんのこと、出自も得意先、コンサルティング会社、プラットフォーマーとエージェンシー以外の審査員が多数を占めていた点にカンヌ側の強い意志を感じました。多様なバックグラウンドを持つ審査員が、公平かつ包摂的に議論をするからこそ様々な視座が提供され、それらが議論の質を高め、審査のレベルを押し上げる瞬間を目の当たりにしました。DE&Iは決してお題目ではなく、審査のクオリティを上げるために必要不可欠な要素でした。他部門の審査員も一様に同じことを言っていたのが印象的です。DE&Iは持続可能な社会を実現するために不可欠ですが、その大切さとインパクトの大きさを“自分事”として身近に捉えることができたのが最大の学びでした。
「コマースを起点にビジネスモデルを変革している作品(Commerce-led Business Transformation)」をグランプリに選びました。得意先は米国のフライドチキンフランチャイズチェーン「Wingstop」。サプライチェーンの問題により手羽先(Wing)の価格が高騰し、ビジネス継続が危ぶまれる危機に。そこで、鳥のもも肉(Thigh)を活用した「Thighstop」というオンライン専用ブランドを立ち上げました。もも肉を活用した新商品開発、調達/ロジスティクス体制の整備、ダークストアの立ち上げ、配送はDoordashとの提携を短期間に実現。ゼロからバリューチェーンの構築を高速で行ったこと、Wingstopのデジタル売上比率は約65%にも達し、得意先事業成長に大きく貢献したことが受賞理由です。コマースとは、ビジネスそのものであり、事業変革に繋がるクリエイティブアイデアこそグランプリにふさわしいとの理由でした。
受賞作品:Thighstop
広告主:Wingstop
カンヌライオンズ公式サイト:The Work | Festival 2022 | Creative Commerce (lovethework.com)
なお、博報堂グループでも当部門で銀賞を受賞しています。
Creative Commerce部門:Creative commerce: Sectors (Food & Drink)
受賞作品:大好物醤油
広告主:株式会社 伝統デザイン工房
エージェンシー:博報堂
昨年度までは「クリエイティブeコマース部門」でしたが、今年から「クリエイティブコマース部門」に変わり、レベルが一気に上がりました。ECは重要だが“一つのチャネル”と捉えられるようになり、よりコマース=ビジネスモデル変革や事業変革に繋がるかどうか?を厳しく問われるようになっています。クリエイティブアイデアとしての新しさや面白さに加えて、事業成果(リザルト)が求められますし、更に業界を変革しうる拡張性/メッセージ性があるかも重要です。特にゴールド以上はこれらを全て持っている=パーフェクトであることが求められるのでレベルは上がっています。ビジネス×クリエイティブ両面から様々な角度で評価される“異種格闘技”になっていることを踏まえてエントリーすることが大切だと思います。
【徳久真也 プロフィール】
外資系経営コンサルティング会社を経て、2005年に博報堂入社。流通・消費財メーカーを中心に、マーケティング戦略立案、ブランディング、クリエイティブ開発、データドリブンマーケティング等に従事。2014年より、データ・テクノロジーを活用した新規事業/サービス開発に従事。国内外で10個の特許を取得/出願。自社事業、得意先とのJV立ち上げ、複数の協業ソリューションの企画・開発・グロース実績あり。2021年より現職。博報堂DYグループ9社横断戦略組織「ショッパーマーケティング・イニシアティブ®」リーダー。
カンヌライオンズデザイン部門ゴールド、クリエイティブデータ部門シルバー、モバイル部門シルバー&ブロンズ他、受賞多数。