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BPOの課題と可能性 効率化から「価値創造」へ
(連載:マーケティング実践ソリューション)

2022.09.16
#マーケティング
近年、官民問わずさまざまな現場において、自社の業務プロセスの一部または全てを外部委託する“BPO”(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の活用が加速しています。博報堂グループでも、クライアントの多種多様なBPOニーズへの対応を行っています。
BPOの最前線で制度設計や運用に携わる5人の社員に、感じているBPOの課題や、これからの可能性について話を聞きました。

小池健人 博報堂 第2BXマーケティング局
宮島達則 博報堂 第2BXマーケティング局
児島真菜 博報堂 第2BXマーケティング局
大津 翔 博報堂 ビジネス開発局
大村 大 日本トータルテレマーケティング(NTM)/博報堂プロダクツ

BPO活用の最新事情と課題

―BPOという言葉に馴染みのない読者もいらっしゃると思います。その定義と、近年のトレンドについて教えてください。

大村
私どもNTM(博報堂グループ)は、BPOサービスそのものをビジネスとしてきた会社です。具体的には企業のコールセンター運営やECのフルフィルメント業務、自治体事業のサポートなどを行ってきました。
BPOを文字通りとらえると「ビジネスプロセスのアウトソーシング」ということになりますが、大きな事業部の業務を丸ごと委託されるケースもあれば、一部の業務のみ委託される場合もあり、規模はさまざま。基本的には、「委託されるものすべてBPO」という理解でいます。

BPOは民間でも自治体でも広く活用されています。国や地方自治体では、特にこの2年ほどコロナワクチン接種のような国民向けの事業が多数発生し、前例もなく、人手もなければノウハウもないという状態で、さまざまな事業者がBPOという形で支援に取り組みました。民間企業においては、かねてより課題だった人材不足に向き合い、周辺業務をどんどんアウトソースしてコア業務への集中を図る動きが出てきて、BPOのニーズが高まっているというのがトレンドです。

―博報堂は、そうしたBPO業務にどういった関わり方をしているのでしょうか。

大津
広告会社としてさまざまな企業の課題解決を行ってきた経験をもとに、官民の幅広い領域のBPO業務をお手伝いしています。国や自治体の事業では、制度の要件定義から関わることもありますし、電話対応や書類発送といった事務局業務、説明会の運営など、さまざまな案件のご相談を受けています。
民間企業からは、新サービスや新規事業立ち上げの事務局業務を依頼されるケースが多いですね。私自身の感覚では、コロナ禍になって、従来よりも突発的な依頼が増えているような気がします。

突発的だとしても、安定した品質とクオリティは当然必要です。そこにお応えできるよう、最近では博報堂とNTMがチームを組んで対応する案件を増やしています。NTMがコールセンターの運営などの足まわりの部分を担って、博報堂が戦略立案やサービス設計、コミュニケーション施策などを主に担う。双方の強みを活かした体制で支援を行っています。

宮島
小池さんと私、児島さんの3人は、マーケティングプラナーの立場で、BPOとしてご相談いただく事業の設計を担当しています。その事業の目的や課題を読み解き、戦略や方針を策定するところから、コンセプト開発、具体的な運用計画の作成、効果測定システムの構築など、いろいろなレイヤーの企画設計を行っています。なかでも、事業が本来達成すべき目的の読み解きと定義づけは、私たちが特に意識して取り組んでいるところです。

―皆さんがBPO業務に実際に携わる中で、見えてきた課題はありますか。

小池
課題はいくつか感じています。まずBPOは多くの場合、実施までの準備期間が短いため、サイトの使いやすさのようなエンドユーザー視点での検証が十分に行えていないと感じるときがあります。

大村
スピードはかなり求められますよね。地方自治体の案件でも、決まり次第すぐに業務がスタートするので、早い段階から業務内容を見越してコールセンターの場所を押さえておく必要があるし、スタートしたらしたで、急遽人員を現地へ送り込んで立ち上げの準備にあたる。ものすごくアジャイルな世界です。

大津
とはいえスピード優先で進めすぎると、肝心のエンドユーザー、生活者が置いてきぼりになってしまうということですよね。

小池
そうなんです。生活者に向けた未来の事業をつくるからには、誰がどんな気持ちで利用するのかといったことにどれだけ想像力をはたらかせられるか、つまり「生活者発想」が本来とても重要なはずです。

宮島
私は、BPOが効率重視に偏りすぎていることも課題だと考えています。一例ですが、領域の広い事業の場合、複数の会社に事業を分割して委託されるケースがよくあります。確かにその方が効率的ですが、各社の担当領域が個別最適で進んでしまい、その結果、実行はできたものの、結果がなかなか出ないということもある。
理想は、誰かがプロジェクトマネジャー的な立ち位置で、ある程度トップダウンで全体をコントロールしていけること。我々博報堂がその役割を担って、本来の事業目的にしっかり沿った“全体最適”の運営をしていけたらと思います。

児島
民間企業であれば事業を継続できますが、行政の場合は単年で事業が終わってしまうため、せっかく作った制度や書類、システムなどがその場限りになりがちなのも悩ましいと感じています。得られた知見やノウハウを、次年度以降の事業や、その自治体の財産として引き継いでいけるのが理想ですよね。そのためにも、できるだけ長期的な目線や連続性を意識して事業環境を構築するようにしています。

大津
そうしたクライアントごとの事情を鑑みながら、いち早く課題を発見し、適切に対処していく。パートナー主義を掲げる博報堂が長年大切にしてきたことです。そういったバランス感覚はBPOでも大事ですね。

BPOに求められる生活者発想

―BPOには「生活者発想」が必要だという指摘がありました。もう少し具体的に伺えますか。

小池
サービスを利用する顧客や、施策に申し込みを行う国民、すなわちエンドユーザーが何を求めてどんな気持ちで申請したり、問い合わせしたりするのか。BPO業務は、そこに思いを馳せることから始まると思います。
入力フォームひとつとっても、名前や住所を何度も書かされて、表記が少しでも違っているとシステムではじかれるなど、ユーザー目線で考えるとおかしいと思うことは多いですよね。そうした点が少し改善されるだけでも、顧客の満足度やシステムの効率はぐっと上がるはずです。

大村
確かに、そういう揺らぎやグレー部分のケアは、事業者側がユーザーのことを理解していないと対応できませんね。

大津
ユーザーに書類を返送してもらう場合も、切手不要ですぐ出せる封筒が同封されていることもあれば、とても組み立てづらい組み立て式封筒だったり、まったく何もついていなかったり。もちろんコストなどの条件は異なるにせよ、ユーザーの体験を想像することで、設計が変わる可能性は大いにありますね。

小池
これをさらに突き詰めると、一人ひとりの生活者に向き合ってどう対応するかという「パーソナライズ」の考え方にもつながっていきます。ある企業では、オペレーターが徹底的に個人に向き合い、その人に共感しながら臨機応変に対応してくれるカスタマーサービスを提供していますが、やはりユーザーからとても高く評価されています。

大村
そうした会社は、顧客の感情や希望に寄り添い、マニュアル通りの回答ではなく、ときにはウィットを挟みながら顧客がちゃんと満足できるよう、最速で課題解決や改善提案するようオペレーターを育てていますよね。そこは僕らもぜひ目指したいと考えています。

宮島
それともうひとつ。エンドユーザーだけでなく、BPOを依頼した事業者側、クライアントの視点で事業を設計することも大事だと思っています。見落とされがちな視点ですが、事業を行う担当者が運用や分析をしやすい仕組みやUIを構築しておくことは、必ず業務の効率化や事業の成果につながるはずです。インナーとアウター両面での生活者発想、それが必要なのだと思います。

BPOによる「価値創造」の可能性

─企業や自治体がBPOを活用する際、どんなことがポイントになると思いますか。

大津
BPOは「実行することが大事」になりがちですが、最大の目的は事業成果を残すことにある。それを忘れてはいけないと思います。事業を行うこと自体が目的になってしまうと、成果は問われず、委託を受けた側の想像力もはたらかず、改善もなされない。そうではなく、BPOによっていかに事業の成果を上げ、いかに付加価値を創造していくかが重要で、生活者発想もそのための視点です。
僕らは普段から広告会社として、製品が売れたり、ブランドが愛されたりするという成果や価値の創造に徹底的に関わっています。この強みは、BPOにおいても活かせると思っています。

大村
同感です。事業者側にあまり予算がないと、BPOは成果や価値よりもコストカット優先になりやすく、実際にできることも限られます。そうした場合でも、付加価値を高めていく工夫はできますよね。

小池
その点で、大村さんと大津さんは、コールセンターでの受け答えの会話分析を本部のマーケティング活動にフィードバックして活用するという取り組みをされていますよね。効率や費用だけが争点だったコールセンターの業務委託に、どうしたら顧客体験がよくなるか、どうしたら価値創造できるかという視点を取り込んだ。今後のBPOの価値軸は、まさにその方向に変えていく必要があると思います。

大津
ボイスドリブンマーケティングの取り組みですね。事故なくさばくことが第一という視点と、どれだけ顧客のLTVを上げられるかという視点は、企業活動の中で本来連携すべきだし、そうできると思います。顧客の声を集めるコミュニティをつくり、ファンとの共創関係を築くなど、顧客の声を基点にした経営活動もBPOで実現することができるはず。博報堂が特にサポートできる領域の一つです。

宮島
先ほどの「パーソナライズ」も、付加価値を生み出す視点ですよね。私も過去に、ある企業のBPOで、コールセンターと商品のパンフレット発送業務を任せてほしいと提案したことがあります。コールセンターやパンフレットは、商品を買ってくれるかどうかの最後の一押しのフェーズになる。だからこそその段階での1to1のコミュニケーションや、その人に最適なメッセージを届けることが大切だと強調しました。今後携わるBPOでも、そうした価値創造型の提案をしていきたいと思っています。

児島
事業を進めながら、生活者の反応を取り入れていくことも大事だと思います。世の中のトレンドと照らし合わせて、現時点での生活者の関心や状態をきちんと捉える。こういう申請が増えていて、こういう問い合わせが同時に来ているということは、いま生活者はこんなことを求めているのだな──。そうした洞察が結果的に多くのユーザーの声に応えることにもなるし、事業者にとっての成果を向上させることにもつながります。

小池
そうですよね。僕らが広告会社として普段から行っている、そこにどういう顧客心理が隠れているか、どんな背景があるかに思いを巡らせること。それをBPOでも実践していくことが、一番の価値創造につながると思います。
施策の進捗の最中にも、そこからの学びを活かしていくこともできるはず。こういう声が届いているのでこの施策と連動させましょうとか、その時々の状況に合わせたアクションを行っていくことが、きっと事業のいいサイクルにつながると思います。

パートナーとして、博報堂にしかできないBPOを追求し続ける

―今日の対談を経て、BPOに対して改めて抱く想いや、これから取り組みたいことはありますか。

小池
事業の設計に関わる身として、あらためて大事だと思うのは「個人をちゃんと見つめる」ということ。500件の申請を、「一人の申請が、500回」と捉えられるかどうか。個々人のシチュエーションに応じた、より柔軟性の高い制度や仕組みづくりに貢献したいですね。もちろんBPOとしての効果効率を前提にしながらも、どうすればみんなが気持ちよく利用できる事業になるのかを追求していきたいです。

宮島
サービスを利用する方々の思いを大切にしながら、そのうえで国や民間企業などの運営側の視点や、アウトソースのニーズもしっかり汲んでいく。それが多くのクライアントを支援する広告会社ならではの、ホスピタリティに対するプライドであり、求められていることだと思います。両者をいかに結び付けて、さまざまなステークホルダーを巻き込みながら、ひとつの事業を成し遂げていけるか。その結果として、事業者側にも生活者側にも「ああ、助かったな」と思ってもらえるようなBPOを目指したいですね。

児島
国や自治体の事業は、それだけの規模と影響力を持つものです。その事業の目的が何か、社会全体にしっかりと浸透する仕組みになっていなければ意味がないと思います。また、事業の事務局を担うからこそ、関係各所に対していろいろな気遣いを回しながら、誰もが気持ちよく一つの事業に向かっていけるような体制を整えるのも、私たちの役割だと思います。

―博報堂グループとして、どのようなBPOサービスを目指していきたいですか。

大村
BPOという言葉を初めて耳にしてから20年くらいたちますが、当初はもっと固定的な役割を設計図に則って遂行するようなイメージでした。いまは登場するプレイヤーも一変し、とても多種多様で間口の広い業務になってきている。生活者の誰もがステークホルダーとして関わる領域になりつつあります。
今日のお話にもありましたが、今後は官民問わず、マニュアルに沿った対応でありながら付加価値をつけて戻していくという、二律背反的な要素を同時に具現化できるようなサービスが求められていくでしょう。僕たちが、いかにその“型”をつくることができるか。まずはそれが第一歩になるような気がします。

大津
アウトソーシングではなく、「パートナー」として頼ってもらえる存在。それこそが我々が目指すところだと感じています。博報堂がBPOに関わるからには、コストカットではなくプロフィット、事業の成果にこだわり、付加価値を生み出すBPOとは何かをつねに追求する。それは、生活者発想とパートナー主義を掲げ、クライアントの事業成果に向き合ってきた博報堂にしかできないことだと思います。NTMの安心安全で効率的なBPOの実績と、博報堂の想像力を掛け合わせて、我々らしいBPOの実現にチャレンジしていきたいですね。

小池
それはとても広告会社らしいですよね。博報堂のクリエイティビティや生活者発想は、BPO自体のトランスフォーメーションにもつながっていくはずです。事業のパーパスを起点に、価値創造型のBPOを実現していくことで、受注側も発注側もエンドユーザーである生活者もWin・Win・Winの関係になっていく。そういう理想的な状態をつくっていけたらと思います。

小池健人
博報堂 第2BXマーケティング局 マーケティングディレクター

宮島達則
博報堂 第2BXマーケティング局 マーケティングプラナー

児島真菜
博報堂 第2BXマーケティング局 マーケティングプラナー

大津 翔
博報堂 ビジネス開発局 ビジネスディベロップメントディレクター

大村 大
日本トータルテレマーケティング コンタクトセンター事業本部 営業統括部 営業二部 部長
博報堂プロダクツ カスタマーリレーション事業本部
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