皆さんこんにちは。ヒット習慣メーカーズの山本です。
暑い日が続きますね。皆さんいかがお過ごしでしょうか。こうも暑い日が続くと、だらっとしてしまったり、なんかやる気が出ないなあと感じたり、やるべきことへのモチベーションをコントロールするのが、少ししんどくなってしまいがちです。今日お話するのは、そんなモチベーションを上げるヒントが隠されているかもしれない、新習慣のお話です。
以前コラムで、「沈黙コミュニティ」について取り上げたことがあります。簡単にご説明すると、沈黙コミュニティというのは、会話せずともコミュニティへの帰属意識を感じられるような空間が人気になっているという話です。会話禁止のカフェやあえて話してはいけないクラブイベントが増えていたり、他のお客さんと会話をしなくても同じ湯に入っているだけで連帯感を感じられる銭湯も人気になっていたりと、対面の会話が苦手で面倒と感じやすい現代人に合わせてコミュニティの在り方が変化していることをご紹介しました。
今回ご紹介するのは、この「沈黙コミュニティ」が新たにデジタルの世界でも広がっているという「デジタル沈黙コミュニティ」に関するお話です。
コロナ禍において、社会のデジタル化は一気に進みました。デジタルにおける人と人の遠隔コミュニケーションは当たり前になり、コミュニティもデジタル上で次々に生まれている時代です。グーグルトレンドで「オンラインコミュニティ」の検索数推移を見てみても、コロナ禍のはじまりだした2020年5月を境に増加していることがわかります。
そんな時代において、沈黙文化もまたデジタルへと移行しつつあるのですが、そこで面白いのは、コミュニティの在り方が「会話せずとも帰属意識を感じるためのもの」というよりは、「みんなでモチベーションを高めあうためのもの」として変化している点です。
もう少しひも解いてご説明するために、「デジタル沈黙コミュニティ」の具体例をご紹介していきたいと思います。
まずは、仕事や勉強など、デスクワークにおけるデジタル沈黙コミュニティです。
コロナで在宅ワークが導入されてから、在宅勤務は気がゆるみ、なかなか作業に集中できないという声は多く聞かれます。これは、他人に見られていると感じる相互監視の圧力がないことから起きるとされ、この圧力はピアプレッシャーといわれています。自宅にいながらもこのピアプレッシャーを強制的に作ろうと、デジタル上でつながりつつも、あえて会話はせずに各々の作業に集中する人たちが増えています。
そこで人気になっているのが、「リモートコワーキングサービス」です。これは何かというと、お金を払って見知らぬ誰かとオンラインで監視しあいながら作業をすることができるWebサービスのことです。設定した作業時間などに合わせて相手がマッチングされ、オンライン会議システムを通じてお互いの監視のもとに作業に集中するという新しい形態です。より一般的で間口が広いサービスとしては「オンライン自習室」という形態もあります。こちらは自習室や図書館のように作業空間をバーチャルに再現したもので、各ユーザーのオンライン状況を表示することで、いろんな人が各々の目標に向かって努力しているという一体感を感じられるサービスになっています。
いずれにしても、これらのサービスは、互いに話さなくても、同じような目的で努力している人の存在を感じられるからこそ、お互いを鼓舞しあいながら作業でき、集中力の維持や生産性の向上に役立つと人気のようです。
また昨年度、爆発的に流行した会員制の音声SNSアプリでも、アプリを使って通話するのではなく、無音の中でただお互いが作業するためのデジタル空間として活用されていた例からもわかるように、特に若い世代では、リモートコワーキング関連のサービスを使わずとも、自分たちの利用するプラットフォームを活用しながら、デジタル上の相互監視環境を作りだしている工夫をしていることもみてとれます。
このようなデジタル沈黙コミュニティは、体を動かすフィットネスの現場でも見られます。
健康やダイエットのために、継続的な運動を頑張ろうと思っても、なかなか一人で継続するのは難しいですよね。そのような悩みを解消するべく、ライブレッスン型のオンラインフィットネスサービスを活用する人が増えています。
ライブレッスンでは、Web上でリアルタイムに配信されるランニングやエアロバイク、ヨガなど動画のライブレッスンを、同じ志を持つ複数人で受講するサービスです。これまでトレーニングというのは、ジムにて一人で黙々と行うものでしたが、自宅にいながらほかの受講生の努力やトレーニング進捗を感じつつ、自分も負けじと頑張れるということで、モチベーションコントロールの視点から近年人気になっています。
さてこれまでご紹介してきたデジタル沈黙コミュニティですが、なぜ今広がっているのでしょうか。
ひとつには、自己投資・自己啓発に関する関心が大きくなっていることがあるといえそうです。メディアでも、人生100年の時代、自己責任の時代といわれ、コロナ禍をきっかけに将来の見通し不安がより一層が高まる中、ここ数年で、資格取得やスキルアップのために勉強する人が増えているといいます。自己啓発市場が拡大するなかで、新しいことにトライする人が増え、そのモチベーション管理を自分一人で行うのではなく、みんなで行いたいという気持ちの表れが、デジタル沈黙コミュニティの現象に投影されているといえます。
また、半分プライベートで半分パブリックな感覚で過ごせる環境があるというのも、人気の秘密であると思います。以前のコラム「ソロ充」でも取り上げたように、コロナ禍の影響もあり一人で過ごす時間も増えたことで、ソロ時間の魅力に改めて気づく人が増加しています。一方で、「寂しさ解消費」にも見られるように、人とのつながりを感じにくい社会生活の中で、孤独感を感じる人も増えているように思います。このように、一人で気兼ねなく過ごせる時間や環境は大事だけれど、同時に人のぬくもりや存在を誰かと時間を共有したいという、相反する気持ちに応えてくれるものとして、半分はプライベート、半分はパブリックな感覚で過ごせるような環境に対する世の中のニーズが高まっているのではないでしょうか。今回ご紹介したデジタル沈黙コミュニティの例でも、一人で黙々と作業やトレーニングに打ち込みたいけれど、頑張りあえる仲間の存在を感じることで、自分に活を入れ集中力やモチベーションを保ちたいという気持ちが見て取れました。話さなくても、互いのことを知らなくても、ともに志を共有できる人が集まる境に身を置くことで、自分を追い込めたり、見えない一体感を感じられることに価値を感じる人が今後増えていくように思います。
最後に、「デジタル沈黙コミュニティ」に関するビジネスチャンスを考えてみました。
勉強でもトレーニングでも趣味でも、何か新しいことを始める際、一人で継続するのは簡単ではありません。集中力が続かない、頑張ろうと思える他者の存在が欲しい、そんな気分の時はに、ぜひデジタル沈黙コミュニティの世界に足を踏み入れてはいかがでしょうか。
▼「ヒット習慣予報」とは?
モノからコトへと消費のあり方が変わりゆく中で、「ヒット商品」よりも「ヒット習慣」を生み出していこう、と鼻息荒く立ち上がった「ヒット習慣メーカーズ」が展開する連載コラム。
感度の高いユーザーのソーシャルアカウントや購買データの分析、情報鮮度が高い複数のメディアの人気記事などを分析し、これから来そうなヒット習慣を予測するという、あたらしくも大胆なチャレンジです。
2017年に博報堂入社以来、ストラテジーやブランドデザインを軸として、企業やブランドの戦略・企画立案に従事。ミレニアル世代/グローバル領域の業務経験多数。写真と音楽とすべてのユースカルチャーをこよなく愛する。