こんにちは。ヒット習慣メーカーズの江です。
秋が終われば冬が来る、昨日11月7日は立冬、冬がはじまる頃ですが、いかがお過ごしでしょうか。11月は公私ともに年末に向けて慌ただしい時期に入り、なぜかあれこれ忙しい!特に自覚はしていませんが、12月を前にやれることをやってしまおうなんて思っているのかもしれません。私はテレワーク中心の生活で、仕事や家事がはかどるため、ついつい張り切ってしまいがちです。時には張り詰めた気持ちを緩めないと、心が疲れてしまいますね。
さて今回は、最近、中国(特に若者の間)において流行っていることば「松(ソォン)馳(チィー)感(ガァン)」をなぞって、勝手に創った造語「脱力ハック」ということについて探っていこうと思います。「松馳感」とは中国語で、すべての出来事をありのまま受け入れて過度に完璧を求めないというような生活態度のこと。「松馳感」を重んじる事象、つまり、力が抜けて自然体で生きるという「脱力」を「ハック(工夫や取り組み)」する、「脱力ハック」というふうに名付けてみました。
この数年間中国では、コロナ禍、ロックダウンによる行動制限や就職難など、いろんなことが起こりすぎて欲張らず、頑張りすぎずに、成り行きに任せる生き方が増えたからこそ生まれた新習慣とも言えるかもしれません。中国のソーシャルリスニングツールを使って「松馳感」を確認すると、直近の半年間で上昇傾向であることが読み取れます。
〈「松馳感」に関する各種投稿総量の推移〉
現在、中国の人々はこういった「脱力ハック」をどのように実践しているのでしょうか。
まずご紹介したいのが、もっともインパクトのある事例「隠居」です。
これは、中国の母校で大学教員を務めている友人が教えてくれた実話ですが、観光名所にもなっている大学の敷地にある名山の山中に、隠居生活を送りたい若者が密かに集っているそうです。独立系映画監督、イベントプランナー、デザイナー、パン職人、写真家、刺青彫師、本屋の主人、画家、全く異なるバックグラウンドを持った20代中心の若者たちが、全国各地から様々な理由でこの山中に移住・定住し、自然発生的に100人規模の集落が形成されてきました。この集落の存在を知った友人が彼らに話を聞いてみると、自給自足にこだわることもなく、必要に応じて食材や生活用品を市中のお店に調達に行くようです。また、ほかの住民と知り合うために、自分から意識的に声をかけることもなく、森の中で開催されるミニコンサート、読書会やフリーマーケットなどの機会で人と触れ合い、住民同士の絆を自然に深めていくことが多いそうです。
次は、「ECセールの回避」。
中国の大規模なECセールと言えば、双璧をなす大型セールで、毎年6月18日に開催される「618商戦」と、11月11日に開催される「ダブルイレブン(W11 / 独身の日)」を思い浮かべる方が多いと思いますが、ここにきて中国の生活者から敬遠されるケースも見受けられます。2大セールの期間では、多くの事業者がセールを同時多発的に実施しており、タイムセールも多く、ライブコマースも集中します。そんな中、力の入れようがすごく、仕事に手が付かず、通勤中や仕事中も会社のパソコンやスマホで一日中、セールに参加しているような人が大勢いる一方、あえてこういったセールを避けてマイペースで買い物を楽しむ若者も徐々に増えてきているのです。友人の教え子に話を聞くと、年々長期化するセール期間や複雑化するクーポン獲得のルールについていけない人も多く、それよりも、多少値段が高くとも、落ち着いて本当に欲しいかつ必要ものを選びながら、「松馳感」のある買い物のほうが後悔を少なくできるそうです。
それ以外にも、「松馳感のある利用体験」を求める傾向も見られます。
例えば、中国では近年、便利な生活家電が続々と発売される中、「脱力ハック」の好事例として家庭用靴洗濯機が人気を集めています。実際のユーザーからは「汚れ落ちは完璧ではない」「使い勝手が悪い」との声もありつつ、「手洗いの補助には十分」、完璧を求めすぎず、つまり、不完全を許容するという新たな消費価値観が台頭したとも捉えられます。
ではなぜ、このような「脱力ハック」が中国の生活者(特に若者)の間で浸透し始めているのでしょうか?その理由は大きく2つあると考えます。
1つ目は、前述の通り、ロックダウンによる行動制限が象徴するように、個人の努力だけではどうにもならない「不確実性」が大きいと思います。若者たちが抱える不安の多くは、新型コロナウイルス感染症の流行をきっかけに社会の不確実性が増したことに起因します。未来が見えず、次に何が起きるかわからない時には、自力でなんとかしようというより、不確実な未来を力まずに好奇心を持って見ることができれば、気持ちが楽になるものです。
そして、2つ目は、肩の力を抜いて生きると「セレンディピティ」が起こりやすくなるところかなと考えます。何事もオープンマインドになる、自分の心をさらけ出し、いろいろなものを受け入れる意識を持つことの大切さに気づいた人が増えているように思います。
そうしたオープンマインドな姿勢が、多様な価値観を持つ人や想定していなかった商品・サービスとの出会い、そういったセレンディピティを引き寄せる可能性を高めます。
最後に、「脱力ハック」にどのような可能性があるか、新たなビジネスチャンスを具体的に考えてみました。
2022年も残り2か月弱、仕事もプライベートももうひと踏ん張り頑張りたいと思われる方も多いかもしれませんが、あえて「脱力ハック」を実践してみてはいかがでしょうか?
▼「ヒット習慣予報」とは?
モノからコトへと消費のあり方が変わりゆく中で、「ヒット商品」よりも「ヒット習慣」を生み出していこう、と鼻息荒く立ち上がった「ヒット習慣メーカーズ」が展開する連載コラム。
感度の高いユーザーのソーシャルアカウントや購買データの分析、情報鮮度が高い複数のメディアの人気記事などを分析し、これから来そうなヒット習慣を予測するという、あたらしくも大胆なチャレンジです。
2017 年博報堂に中途入社。
近いようで遠い中国のヒット習慣から仕事のヒントを探す日々。
中国で一番辛いと言われる故郷の湖南料理をこよなく愛する、生粋の「辛党」。