こんにちは、ヒット習慣メーカーズの中林です。
こころもからだもぐったりする季節ですが、いかがお過ごしでしょうか。
先週末、カエルの香炉を買いました。お香を炊くと、カエルの口から煙がでてくるようになっていて、プカプカと、とてもかわいいのです。カエルに煙をはかせるのが楽しくて、ひっきりなしに炊き続けていたら、家族からクレームが入りました。気づかないうちに香害を引き起こしていたようです。何ごとも、やり過ぎは禁物ですね。
というわけで、ここ数日のわたしはカエルのプカプカを見つめてたのしく過ごしておりますが、それはさておき、今日のコラムではいま海外を中心に流行し始めている「たのしい体験」について紹介したいと思います。
突然ですが、みなさんは「イマーシブ」という言葉を耳にしたことはありますか?
直訳すると「没入」という意味になるのですが、体験の没入感をより深めることで新しいたのしみ方を生み出す、というもので、エンタメ業界では「没入型〇〇」として広がりをみせている言葉です。
「イマーシブ」の検索数推移
今日は、3種類の没入型エンタメをご紹介します。
まず1つ目は、「アートの世界」への没入体験です。
アートといえば、昨今では、身につけるアート(vol.165『アートファッション』)や、AIを活用してつくるアート(vol.248『誰でもAIクリエイター』)など、鑑賞するものから身近にたのしむものとして変化しつつあり、日常にアートを取り入れる習慣も増えているように感じます。
ご紹介する没入型アート(別名、イマーシブアート)は、広い空間の中に絵画などの芸術作品が投影式で展示されており、会場内を自由に歩き回って五感すべてでその作品を体感する、というものです。壁や床まで、目に入るすべての空間が投影映像で満たされるため、作品を鑑賞しているというよりも、作品の中に入り込んでしまったかのような没入感を味わえるのが特徴です。
また、作品を鑑賞するだけではなく、その作品が創られた背景や、絵画になったもとの風景も合わせて見ることができるため、鑑賞者の視点から一転、自身が画家になり、画家の目線で世界を見ているような感覚に陥ります。
また、会場内で写真を撮ると、投影映像の光が当たってまるで作品の中に入り込んでしまったかのような一枚になるのですが、クオリティの高い写真が撮影できるというのも若者世代にとっては訪問の動機の一つになっているように感じます。
2つ目にご紹介するのは、「物語」への没入体験です。
こちらは、劇や公演などのイベントにイマーシブの概念を導入したもので、没入型の催しを行う劇場は「イマーシブシアター(没入型劇場)」と呼ばれています。
従来の劇場との一番の違いは、イマーシブシアターには客席と舞台という概念がなく、空間すべてがステージとなっているという点です。観客はステージ上を動き回り、同時並行で進行しているストーリーを自由に観劇することができます。
観客によって目撃するシーンが異なるため、参加者それぞれが唯一無二の鑑賞体験を得られるのも、イマーシブシアターの大きな特徴です。
3つ目にご紹介するのは、「レストラン」への没入体験です。
飲食店で没入体験を味わうというもので、日本ではまだあまり親しみがないように感じますが、海外では「イマーシブレストラン」としてひとつのエンタメジャンルが誕生しつつあるようです。
「イマーシブレストラン」の検索数推移(対象国:すべての国)
イマーシブレストランは、訪れる人がそれぞれその世界に没入し、登場人物の一人として食事を楽しむことができるレストランです。海底や船上、お化け屋敷などのコンセプトがあらかじめ決まっており、空間や食事のメニューがコンセプトに沿って創られているため、現実世界とは違う異空間で過ごしているかのような非日常体験を味わうことができるのです。
なかには、2つ目にご紹介したイマーシブシアターと融合させ、ホテルに泊まったり、列車で移動しながら食事をするイマーシブレストランもあり、今後のイマーシブ界の広がりに期待が高まります。
では、一体なぜ没入感を重視したイマーシブ体験がいま世界で流行しているのでしょうか?
大きな理由としては、生活者の消費行動が「体験そのもの」より「体験の唯一性」を重視するように変化していることがあげられます。特にイマーシブシアターなどは、観劇者それぞれが異なる物語を体験できるため従来のエンタメよりも唯一性が高く、生活者のニーズと合致しているのだと考えられます。また、演者とコミュニケーションが取れるなど、内容をひとに話したくなるような体験づくりが設計されており、口コミを通じて話題性が高まっていることも流行の理由のひとつだといえるでしょう。
作品と鑑賞者、演者と観劇者、という立場をなくすことでいままでの常識を覆した没入型エンタメ。今後どのように展開されていくのか、たのしみです。
最後に、今後の広がりについて、考えてみました。
常に通知音と隣合わせですごしている現代人にとって、なにかに没入したり、没頭する時間というのはあえて意識してつくらないと難しいものになってしまっているのかもしれません。
たまには携帯越しの世界とお別れして、強制的に没入の世界へいざなってくれるイベントに参加してみると、いいリフレッシュになりたのしいかも。
休日の過ごし方に迷ったら、ぜひ足を運んでみてください!
▼「ヒット習慣予報」とは?
モノからコトへと消費のあり方が変わりゆく中で、「ヒット商品」よりも「ヒット習慣」を生み出していこう、と鼻息荒く立ち上がった「ヒット習慣メーカーズ」が展開する連載コラム。
感度の高いユーザーのソーシャルアカウントや購買データの分析、情報鮮度が高い複数のメディアの人気記事などを分析し、これから来そうなヒット習慣を予測するという、あたらしくも大胆なチャレンジです。
2021年博報堂に入社。一人前のマーケティングプラナーをめざして毎日修行中。趣味はヨガと編み物、好物はさば寿司といわし、あと卵焼きです。まいにち散歩をします。