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ヒット習慣予報 vol.86 『モバイル・ドクター』

2019.09.03
#トレンド

こんにちは。ヒット習慣メーカーズの村山です。

8月が終わり、夏の暑さも落ち着きを見せる今日この頃ですが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。やばい、かき氷食べてない、スイカ食べてない、川下りにも行ってない、、、などやり残した夏タスクリストがたまりまくっており、(今年は梅雨明けが遅かったこともあるのか)例年以上に「夏が短くてさみしい」想いに駆られています。

そんな夏の暑さですが、今年の夏も数多く開催された野外スポーツイベントや音楽フェスティバルなどでも大きな懸念事項の一つとして議論されています。様々な対策が検討されていますが、もし熱中症などを発症してしまった際には適切な対応を短時間でできるかが大切になってきます。

そこで、2019年3月に初めて使用され話題になったのが、スマートヘルメットです。
このヘルメットには通信機能、GPS測位システム、カメラが搭載されており、ヘルメット側面のボタンを2回押すだけで医師がいる救援本部とリアルタイムで通信して診察できるシステムになっています。つまり医師の知識と技術を、ヘルメットをかぶった人のところに持ち運ぶことができるということです。専門的な医療知識をもった人材の稼働が限られる中で体力のある一般のレスキュー隊員が人命救助できる確率が高まる仕組みに期待が寄せられています。

このようなテクノロジーの進化がもたらす医療の新潮流として取り上げるのが、今回のテーマ「モバイル・ドクター」です。専門的な医療知識や技能を、医療従事者がいる場所以外に距離を超えて持ち運べるようになってきているということを意味しています。

2020年は、第5世代移動通信システムである5Gが日本でも始まる「5G元年」でもあります。Googleトレンドで調べてみても19年以降急速に検索数が上昇していることがわかります。5G が始まると通信できる容量が大きく上がり、IoT化はじめ様々な社会の在り方が変化すると言われていますが、その一つがロボットを介した遠隔医療です。

第5世代移動通信システムの検索数推移

出典)Googleトレンド

5Gでは通信の遅れがほとんど発生しない上に、ロボットがモノをつかんだ時の感触まで伝えることができるテクノロジーも実現しているので、離れた場所にいる医師がロボットを遠隔制御して手術をおこなうことさえ可能になると言われています。医師の技術をロボットが行ける範囲であればどこへでも持ち運べる時代が到来するかもしれないのです。医療人材が不足してしまう離島などの地域での活用も期待されますし、それこそ遠くない未来には医療ロボットが街中をパトロールして有事の際にすぐに治療してくれる、なんて日も訪れるかもしれません。

さらに、手術などの外科治療以外にも、「モバイル・ドクター」の可能性は広がっています。AI技術で、画像判定による病気診断だけでなく、精神療法やカウンセリングの分野にまで活用され始めているようです。高齢者の孤独死や引きこもりなどが社会問題化する中で、医師が向き合える限界を超えて多くの人たちに医療を提供できることになります。今後このAI技術をスマートフォンなどで活用できれば、わざわざ病院まで出向く心的ストレスもなく、どこにでも持ち運べる自分だけのカウンセラーになるのです。AIに恋をする主人公を描いた映画がヒットしたのも記憶に新しいですが、人とテクノロジーの境界が曖昧になることで、AIが人の仕事を奪うのではなく、人の人生を救う未来を垣間見ることができる事例だと思います。

もっと小さくて手軽に持ち運べる医療機器では、最近心拍数だけでなく血圧まで測定できるスマートウォッチが発売されました。アメリカ食品医薬品局によって既存の血圧測定のための医療機器と同じくらいの正確性があるものだと認定されているようで、血圧が高い人や高齢者にとってはまさに「モバイル・ドクター」と言っていいテクノロジーだと思います。

他にも、便には様々な健康データが含有されていることは有名な話ですが、実は“涙”にも健康に関するデータが様々含まれているようで、そのデータを取得してくれる「スマートコンタクト」の研究が進んでいるようです。肝臓病やガンの検診までできるようになる可能性もあり、発売されたらまさに世界最小(!?)の「モバイル・ドクター」になることでしょう。

ここまで様々な事例をご紹介してきましたが、このような「モバイル・ドクター」に対する需要が芽生え始めている理由はなんでしょうか。
大きな要因は、人口減少と高齢化を抱える成熟社会に本格的に突入したことではないかと考えます。人生100年時代を生き抜くためにも個人単位での能動的な健康管理と最適で迅速な治療はますます求められていくことになると思います。もしかしたら、医療インフラが整っている既存の都市地域以外での多様な暮らし方への欲求も追い風になっているのかもしれません。自動車業界では100年に1度の変革期だと言われていますが、この変革期に、ワクワクする楽しい変革だけでなく、癒しと医療のための優しい変革も次々と起きていくといいですね。

最後に、「モバイル・ドクター」のビジネスチャンスについて、少し考えてみたいと思います。

◎「モバイル・ドクター」のビジネスチャンス例
■コンビニなどに緊急治療用の「モバイル・ドクター」スポットを設置
■独居高齢者の話し相手になってくれるカウンセリングロボットを販売
■持ち運べる医療器具とともに旅行する旅行プランを提供
など。

村山駿(むらやま・しゅん)
統合プラニング局

営業職を経て2015年にPR戦略局に、19年より統合プラニング局に異動。車からファッションに至るまで様々なクライアントの情報戦略、企画立案に携わる。毎日きまった街のきまった飲み屋に入り浸っているので、知らない街の知らない店に飲みに行く活動を実施中。

▼「ヒット習慣予報」とは?
モノからコトへと消費のあり方が変わりゆく中で、「ヒット商品」よりも「ヒット習慣」を生み出していこう、と鼻息荒く立ち上がった「ヒット習慣メーカーズ」が展開する連載コラム。
感度の高いユーザーのソーシャルアカウントや購買データの分析、情報鮮度が高い複数のメディアの人気記事などを分析し、これから来そうなヒット習慣を予測するという、あたらしくも大胆なチャレンジです。

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