こんにちは。ヒット習慣メーカーズの永井です。
先日、毎年恒例の海外旅行や実家のある宮古島への帰省を今年も断念し、この夏をどうやり過ごそうかと悩んで、ふと友人に休日の予定を聞いたところ、「ホカンスします」と返ってきました。ホカンスとは、ホテルとバカンスを組み合わせた造語で、文字通りホテルに滞在しながらバカンスを楽しむことを言うのですが、友人に聞けば、コロナで海外旅行に行けなくなったから、それっぽい近場のホテルに滞在し、SNSに海外バカンス感のある投稿をして楽しむのだとか。海外旅行などコロナによってさまざまな娯楽やレジャーが失われてしまいましたが、この状況下だからこそ生まれた新しい休日の楽しみ方のようです。
Googleトレンドの過去5年間における「夏休み」の検索数を見てください。例年に比べて昨年度は、自粛ムードの影響かスパイクが小さくなったものの、今年は例年並みに回復。多くの生活者が夏休みの過ごし方について、なにかしら模索している様子がうかがえます。
さらに、若者たちの休日の過ごし方を調べてみると、ホカンスのように、地元などの近場で海外旅行気分を味わおうとする新習慣が見えてきました。今回は、そんな新習慣を「近場で海外気分」と題して、いくつかの事例をご紹介したいと思います。
まずは、先ほど挙げたホカンスです。
すでにご紹介した通り、ホテル滞在でバカンス気分を味わう過ごし方ですが、その起源を探ってみると、コロナで旅行に行けない若者たちが編み出した韓国発のトレンドでした。自粛を促され、例年通りの旅行が難しい状況の中、普段では利用しないような近隣の高級シティホテルの滞在で代替したのがきっかけのようです。最近の動向を見ると、大型連休だけではなく、週末に気軽にする人も増えており、いわゆる映えるような外国風のインテリアや室内装飾のホテルに滞在し、その様子をSNSにアップしているようです。周りの友人にも、韓国風ホテルで、韓国料理をデリバリーし、好きな韓流アイドルのライブ映像を鑑賞する人もおり、単にホテル滞在してリラックスするわけではなく、より自分たち仕様にカスタマイズして楽しんでいるようです。
もう少し裾野を広げてみると、カフェや飲食店でも似たような傾向がありました。
ホカンスから少し時間軸がずれますが「#韓国っぽ」という言葉が、数年前からSNSを中心に浸透してきました。韓流ブームを追い風に、あらゆる分野で韓国のユースカルチャーが注目されていますが、カフェや飲食店に注目してみると、もはや店名がハングルだったり、店内装飾やメニューが完全に現地化しているお店を目にする機会が、ここ最近かなり増えてきたように感じます。この傾向は韓国に限った話ではなく、台湾やタイ、オーストラリアなど海外コンセプトのカフェや飲食店でも見受けられます。
ちなみに、中国の若者の間でも、SNSで「#假装在〇〇(〇〇にいるつもり)」というハッシュタグを付け、まるでその国にいるかのようなカフェや街並みをバックにしたセルフィーを投稿するのが流行しているらしく、世界的な傾向でもあるようです。
最後に、少しエクストリームな事例としてご紹介したいのが、在日外国人が多く居住するエリアの街ブラです。
これはかなり個人的な体験ですが、僕自身中国に住んでいたこともあり、時折日本人の舌に忖度しない本場の中華料理が恋しくなり、中国人が多く居住するエリア、いわゆるリトルチャイナに足を運んでは、現地感満載のメニューを堪能したり、本場の調味料を購入したりしています。あまり観光地化していないところがオススメで、利用客の大半がその街に住む中国人なので、入店時には「你好」と挨拶され、まさに現地に来たかのような疑似体験ができます。コロナ以前からの個人的な習慣でしたが、体感的に同じような日本人と居合わせる機会が増えてきたように感じます。この他にも、日本にはいくつかリトル〇〇と言われるような街があるので、この機会に足を運んでみてはいかがでしょうか。
さて、いくつか「近場で海外気分」の事例を紹介してきましたが、なぜここまで広がりを見せているのでしょうか。
ひとつは、休日の過ごし方としてマインドシェアを占めていた旅行が物理的に制限され、生活者が非日常感を味わえる新たな体験を模索しているからでしょう。長引く自粛ムードに生活圏が狭まり、より近場での楽しみ方が見直される中、近場でも手軽に非日常感を味わえるのが海外感なのではないでしょうか。
もうひとつは、若者にSNSネタとして好まれているからだと思います。自身の投稿にいいねやコメントを得られることに満足感を覚える若者にとって、リアルかフェイクかは重要ではなく、他と差別化でき注目を集められることが優先されているように思います。特に海外コンセプトのホテルやカフェは、言語やデザインなど視覚的にも差別化されやすい点が好まれている要因だと考えます。
最後に、「近場で海外気分」のビジネスチャンスについて、少し考えてみました。
この夏も思い出ゼロの予感がしていましたが、この記事を書くにあたり、いいホテルをたくさん見つけたので、少し落ち着いたらホカンスしたいと思います。
▼「ヒット習慣予報」とは?
モノからコトへと消費のあり方が変わりゆく中で、「ヒット商品」よりも「ヒット習慣」を生み出していこう、と鼻息荒く立ち上がった「ヒット習慣メーカーズ」が展開する連載コラム。
感度の高いユーザーのソーシャルアカウントや購買データの分析、情報鮮度が高い複数のメディアの人気記事などを分析し、これから来そうなヒット習慣を予測するという、あたらしくも大胆なチャレンジです。
2018年北海道博報堂に入社し、2021年から博報堂生活者エクスペリエンスクリエイティブ局に所属。アンダーグラウンドからメインストリームまで、新たな生活者インサイトを発掘すべく、日夜どこかの街を徘徊している。