第一部の冒頭では、まず岡田編集長より「ブランドたまご」について紹介。博報堂ブランド・イノベーションデザインの若手を中心にチームを構成、これからのブランディングのヒントを探るべく、日本の伝統×イノベーションから生まれた魅力的な“らしさ”を持つブランドを全国各地で取材し、情報発信していることを説明しました。続けて「過去2年間で30件以上のブランドを取材する中で見えてきたのは、成功するブランドには志(理念、ビジョンなどの「社会意義牲」)・形(独自性のある商品やサービスといった「唯一無二性」)・属(ファンや支援コミュニティなどの「共感応援性」)の3要素が備わっていることです」と解説。「ブランドたまご」で取材した具体例として、保存食のプロである老舗の醸造所が開発した「フロートレモンティー」(山口県)、昔ながらの花火の楽しさを追求する「筒井時正玩具花火製造所」(福岡県)、桑茶を手摘みする“おばちゃん”との関りを大事にした「さぬきマルベリーティー」(香川県)といった事例を紹介しました。
さらに、規模の大きな企業の事例として、岡田編集長自身が過去にブランディングのコンサルタントとして携わったぺんてる株式会社のブランディングプロセスについて解説。「企業ビジョンを刷新するにあたり、幹部社員の皆さんとディスカッションしながら、競合にはない個性、ぺんてる“らしさ”について改めて考えました。その結果、ぺんてるというメーカーには、情報を正確に記録する筆記具というより、サインペンや筆ペンなど、発想する、表現する文具に強みがあるということに気づいた。そこから、“表現”という言葉を軸に企業理念をつくっていきました」。さらに、その後銀座にらくがきができるBarを期間限定で開いたり、他分野の企業とのコラボなどを通して、「志」「形」「属」の3要素をおさえることで、企業成長にもつなげることができたと説明、第一部を締めくくりました。
第二部からは、具体的に1つの事例をとりあげて、学びを深めます。前半に登壇したのは、神戸マッチ株式会社代表取締役社長の嵯峨山真史さん。嵯峨山さんが手掛けるお香ブランド「hibi」は、マッチの持ち手部分がお香になっていて、マッチでつけた火がお香に燃え移り、そのまま香りを楽しめるという“着火具のいらないお香”です。
嵯峨山さんは、1929(昭和4)年に祖父が創業したマッチ会社の3代目として、縮小する一方のマッチ市場への危機感からいかにhibiというブランドを生み出していったかを語りました。「マッチという道具自体の需要を増やそうと、マッチの雑貨ブランドを立ち上げたり、大企業とのコラボマッチを開発したりしましたが、どれもうまくいかなかった。そこで、マッチの価値は何かを改めて考え直した結果、火をつけるという唯一の機能にあると思い至りました。その機能を軸に別の何かを掛け合わせることで、現代社会で失われつつある“擦って火をつける”という行為を後世に残しつつ新しい商品を生み出せるのではないかと発想を転換させたんです」と嵯峨山さん。
兵庫県はマッチの生産量とともにお香の生産量も全国一。同じ兵庫県の伝統産業を担う者同士でチャレンジしようと線香メーカーに声を掛け、コラボが実現します。神戸出身のデザイナーも入った「チームhibi」を編成し、3年半の試行錯誤の結果、2015年4月にhibiをリリースするに至りました。
ここでブラたま編集部の阿部成美より、hibiというブランドの「属」の状態=ブランドに共感する人やファンの実態を把握する「“属”診断調査」の結果を報告。こちらは、ブラたま編集部が編み出したオリジナルの調査です。
購入者やバイヤーにアンケートを実施したところ、hibi購入者の7割が「志に共感する」と回答しており、さらにその後SNSに投稿したり、友人に勧めたりといった行動に移している実態を解説しました。さらにバイヤーのほとんどがブランド力よりもその背景のストーリーを重視しており、志に対するバイヤーの共感値が非常に高いと指摘。だからこそ志が購入者へと伝播できているし、そんなバイヤーさんとしっかりとした関係性が持てているのがhibiである、と解説しました。
第二部後半では代官山 蔦屋書店バイヤーの勝部佑香さん、篠塚陽子さんも交え「『hibi』に学ぶ、熱い仲間の作り方」と題したクロストークが行われました。文具コンシェルジュでもある篠塚さんが最初にhibiを見つけたのは、代官山 蔦屋書店の商材を発掘するために訪れた展示会場だったそうです。「最初はロゴやコピー、日常(日々)のリビングにあるhibiを表現したブース全体の完成度が高く心に残り、その後嵯峨山さんの想いやマッチ業界の実態、お香という同じ地場産業と手を取り合ったことなどのバックストーリーを知り、感動してファンになった」とhibiとの出会いを述懐。
それを受けて嵯峨山さんは、hibiのデザインや世界観づくりなどに携わるチームhibiについて、「デザインやコピーなど専門外のことは各クリエイターに任せています。“ビジョンの共有と個性の重視”こそがチームブランディングの要」と話します。「その後の出張フェアでhibiを取り扱ったのが、旅行フロアとの最初の接点だった」と話すのは旅行コンシェルジュの勝部さん。「旅先のホテルなどでリラックスできる商品として紹介したところ、すごい売れ行きだったんです」と続けます。フェア自体は30~50代の男性をターゲットにしていたものの、女性や観光客による購入が目立ったそうです。
嵯峨山さんはフェア終了後も、まるでメルマガのように勝部さんに頻繁にメールを送りhibiのメディア露出情報などを積極的に発信し続けていたそう。「おかげで、頭の片隅でいつもhibiを意識していました」と勝部さん。やがて代官山 蔦屋書店旅行フロアでのhibi常設が決定。その後の飛躍へとつながりました。「実は、さまざまな流通から引き合いはありますが、お断りすることもあります。hibiは、商品に込めた想いを理解し、お客さんに言葉で伝えていただき、一緒に育ててくださるお店に置きたい。バイヤーさんもチームhibiの大切なメンバーですから、想いを口にすることを大事にしています」と嵯峨山さんは語ります。
勝部さんはその後、“森の図書館”という代官山 蔦屋書店のコンセプトに合わせたオリジナルのhibiを開発。「他店舗のスタッフにもたくさんサンプルをかいでもらいました。hibiのファンになってもらって、何百とある商品の中でも気にかけてもらえたらと思った」と振り返りました。最初に志を伝える場があり、さらにそれを受け取ったバイヤーさんがチームhibiの一員として広げていくことで、結果hibiは大きく成長している、と岡田は指摘しました。
質疑応答の時間を挟み、最後にブランディングに取り組む受講者に対し、3人に一言ずつメッセージをお願いしました。篠塚さんは「いまはオンラインショップで何でも買える時代だが、発展途上にある商品や、背景にオンリーワンのストーリーがある商品は、まだまだ可能性があるはず。そういった商品をこれからも見つけていって、お客様とのご縁をつないでいきたい」と語り、勝部さんは「ある編集者さんが以前、書店に本を置くことで著者の居場所をつくりたいと言っていた。商品も同じで、作り手と売り手が思いを共有する関係性がとても重要。hibiではそれが実現できていると思う」と語りました。
そして嵯峨山さんは、「ブランド立ち上げから3年半で思うのは、動かなかったら何も起こらないけど、動けば必ず何かは返ってくるということ。周囲を見渡すと、企業の大小にかかわらず頭でっかちになって動いていないケースが多いと感じるので、ことブランドづくりにおいては、勇気をもって動くことを勧めたい。それから、会社には人・モノ・金という資源がありますが、ブランドはそのすべてを引き上げてくれる、貸借対照表に載らない第4の資産と言える。それにより人も集まるし、価格の競争からも抜け出せる。経営戦略としてもブランディングには価値がありますし、だからこそ力を注いでいく意味があるのではないでしょうか」と語り、講座は盛況のうちに終了となりました。
セミナーに登壇した岡田編集長と阿部デスクはそれぞれ、セミナーを振り返って「セミナーというリアルな場だからこそ、失敗談やリアルな交渉場面を聞くことができてとても興味深かったです。特に、ブランドの作り手だけでなく、その1番最初のお客さんであるバイヤーの視点は、企業の規模にかかわらず参考になったのではないかと思います。またこのようなセミナーを企画したいと思います(岡田)」「実際のお客様の手もとに届くまで、バイヤーさんを含めた全員をチームと捉える。その作り手の意識次第で商品の想いが届く量が変わることを私自身も気づかせてくれるセミナーでした。今後もブラたまのブランドに学ばせていただきつつ、ブランド作りのヒントを見つけていきたいと思います。(阿部)」と語っています。
最新記事情報や取材裏話などを配信中!
これまでの取材記事は下記リンクからご覧ください。