博報堂生活綜研(上海)は、中国伝媒大学広告学院との共同研究「生活者“動”察」の11回目となる研究発表会を、中国・北京市にて4年ぶりにオフラインで開催しました。
今年の研究テーマは、「新たな時代へ再始動していく中国生活者の実態」です。2023年は、消費行動に関してはまだ弱含みな印象も残る中、私たちは生活者が取り組んでいる「コト」に変化の兆しを感じ、その実態を研究しました。
急速な経済成長や社会変化を背景に、仕事での成功、社会変化へのキャッチアップなどを意識して目標を設定し、その目標に向かって邁進してきた2010年代の中国生活者。しかし、ここ数年間、経済成長が緩やかになり、2010年代半ばに比べると生活環境の変化も小さくなる中で、人々はよりプライベートを重視し、トレンドを追うだけでなく、自分の世界を多方面に啓いていけるように自ら目標を見出しています。そして今回の研究を通じ、自ら設定した目標に向けて自分に過度な負荷をかけず、より軽やかに進もうとし始めている中国生活者の姿がみえてきました。
私たちは、このように「自分の世界を軽やかに、少しずつ啓いていく」行動を増やし始めている現在の中国生活者の状態を「軽啓(Qingqi)」と名付けました。
これは、この数年間注目されていた「内巻」(仲間内で過度な競争をしていく状態)や、「躺平」(やや気力を失い寝そべっているかのような状態)とは異なる、新たな中国生活者のスタンスだと博報堂生活綜研(上海)はみています。
1月11日に開催された発表会では、このような「軽啓」を象徴した、新たな時代のライフスタイルを模索する中国生活者のリアルな姿をご紹介しました。また「軽啓」というスタンスが広がる中で、企業はマーケティング活動をどう変化させていくべきかという観点からもプレゼンテーションを行いました。
本発表のレポート(日本語・中国語)をご希望の方は、博報堂生活綜研(上海)<news@hakuhodo-shzy.cn>までお問い合わせください。
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≪参考データ≫
実際に生活者が意識的に取り組んでいるコト、楽しんでいるコトに注目すると2019年に比べて「学習/スキルアップ」、「ゲーム」、「球技」などの多人数で行うスポーツや、「友人との外食」が減少し、「ボランティア」、「旅行」、ブームとなっている「キャンプ」、「ペット飼育」に加えて、「茶道/書道/生け花」、「絵画」、「料理」などひとりでも始められる多様な趣味へと、取り組んでいるコトがシフトしています(データ1)。
<データ1> 中国生活者の取り組んでいるコト、楽しんでいるコト(2019年/2023年比較)
中国では世界に先駆けて生活のデジタル化が急速に進んでいましたが、ここ数年は生活環境の変化が緩やかになっています。加えて、コンテンツが充実し続けるスマホを見つめる時間が長くなり、いつの間にか時間が過ぎていくという生活に、やや物足りなさを感じ始めている生活者も増えています(データ2)。
仕事の昇進や昇給が難しくなっているという感覚も強まり(データ3)、以前と比べると仕事に役立つ知識やスキルを身に着けたいという考え方はやや後退しているようです。
そのような中、仕事を通じた成功/自己実現以上に、自分のプライベートを大切にしたい、趣味を豊かにしていくことで生活の充実感を高めたいと考える生活者が増えています(データ4)。
結果として仕事での成功、社会変化やトレンドへのキャッチアップなどを意識して目標を設定してきた時代から、よりプライベートな生活の充実を重視し、「自ら目標を設定し、自分の世界を多方面に啓いていく」時代に移行していると見ることができます。
<データ2> スマートフォン使用時間に対する意識の変化
<データ3> 昇進や昇給に対する感覚の変化
<データ4> プライベート生活に対する意識の変化
自ら何かを始めよう、続けようとするときには様々なハードルにも直面します。中国生活者が今何かを始め、継続するときにどんなことがハードルになると感じるかきいたところ、「時間不足」がトップに。「お金不足」は7位とあまり大きなハードルになっていませんでした。その他、「始める/続ける自信不足」(2位)、「情報不足」(3位)、「仲間不足」(4位)などが上位に挙がりました(データ5)。
また、これらのハードルをどのように乗り越えているのか、インタビューを通じてきいたところ、全体的に自分に過度な負荷をかけず、軽やかにハードルを越えたり、かわしたりしている姿がみえてきました(データ6)。
<データ5> 新しいコトを始めたり、継続したりするときに感じるハードル(「新しいコトを始めた」と回答した人ベース)
<データ6> 趣味/学習行動を始めたり、継続したりするときに感じるハードルとその対処方法
「自ら目標を設定し、自分の世界を多方面に啓いていく」という志向を持ち、その際に直面するハードルを軽やかに越えたりかわしたりしている現在の中国生活者の姿を、博報堂生活綜研(上海)は「軽啓(Qingqi)」(=自分の世界を軽やかに、少しずつ啓いていく)と名付けました。
中国ではここ数年、「内巻」(=仲間内で過度な競争をしていく状態)や、「躺平」(=やや気力を失い寝そべっているかのような状態)といったキーワードが注目されてきました。経済成長や社会環境の変化が緩やかになる中で、競争をしてもリターンが得られにくくなっている。それよりは、少し力を抜いて寝そべってしまおう。そんな中国生活者の状態を反映した、生活者自らもよく口にするキーワードです。
しかし、本格的なアフターコロナを迎えた2023年、生活者は以前とは異なる「コト」に自ら取り組み始めています。そして何かを始め、継続する際何らかのハードルに直面した場合も、自分に過度な負荷をかけず、軽やかにそのハードルを越えたりかわしたりして進んでいます。時として、今も「内巻」に参加したり、「躺平」と口にしたりすることもある中国生活者ですが、そのような中、「軽啓(Qingqi)」というスタンスが広がってきていると考えています。博報堂生活綜研(上海)では、引き続き研究を続けてまいります。
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【本研究にあたり実施した調査の概要】
■「中国生活者ライフスタイル変化調査」
対象者数:3000人
対象者条件:1-3級都市在住、20-49歳の男女
調査手法:インターネットアンケート調査
調査時期:2023年12月
調査機関:Shanghai Zhongyan Network Technology Ltd.
■「中国生活者2023年再始動実態インタビュー調査」
対象者数:22人
対象者条件:1-3級都市在住、20-49歳男女
調査手法:1対1デプスインタビュー
調査時期:2023年10-11月
調査機関:Shanghai Horizon Research Co., Ltd.
■「中日韓ライフスタイル/行動変化に関する国際比較調査」
対象者数:1400人
対象国:中国(北京市、上海市、広州市)、日本(東京都、大阪府)、韓国(ソウル市、釜山市)
対象者条件:20-49歳男女
調査手法:インターネットアンケート調査
調査時期:2023年9月
調査機関:Opinion Research Shanghai Boyu Co., Ltd.